高齢者、低所得者を支援する「セーフティネット住宅」が広まらない理由写真はイメージです

低所得の高齢者が多い集合住宅

 札幌市の3階建て集合住宅「そしあるハイム」で2018年1月31日の深夜、火災が発生し11人の入居者が亡くなった。住宅困窮者を受け入れ、入居者は相互扶助の考え方による共同生活を送っていた。ボランティア活動に近い運営が成され、地域の評判も良かった。

 運営する合同会社「なんもさサポート」が食事を提供していたため、無届けの有料老人ホームともみられたが、札幌市は調査の結果2月末に「該当しない」と判断した。厚労省が示す「居室の利用を高齢者に限定」という有料老人ホームの規定に合致しなかったからだ。実際、高齢者でない入居者もおり、生活困窮者向けの下宿として運営してきたことも判断材料に加わった。

 また、実質的には社会福祉法の第2種社会福祉事業の「無料・低額宿泊所」の機能を果たしていたが、短期利用者でないことでこれにも該当しない。

 有料老人ホームであれば、部屋面積の下限やスプリンクラーの設置などの基準を守らねばならない。無料・短期宿泊所なら4畳半(7.43平方メートル)以上の個室や消火器の設置などの指針がある。いずれも法的な強制力はないものの、自治体からの指導は受ける。

 この痛ましい事件は、2009年に群馬県渋川市の施設「静養ホームたまゆら」の火災事件を思い起こさせる。入居者たちの大半は、住まいを求めて東京23区の福祉事務所の紹介で遠隔地に移らざるを得なかった。生活保護受給者が多かったことも共通している。

 有料老人ホームの届けを受けるのは都道府県か政令市、中核市である。「たまゆら」を調べた群馬県は、「高齢者だけの施設ではない」とみて有料老人ホームではないとしていた。

 2つの集合住宅の入居者はいずれも低所得の高齢者が多い。もし要介護度が高ければ特養など介護施設に入居できた。だが、心身の状況が施設に入居するほどでもない。施設入居が適っても、低所得のため相部屋しか選択肢はない。個室は高額で手が出ないからだ。あるいは、窮屈な施設暮らしに馴染めない高齢者も少なくない。