「ダイバーシティ」「LGBT」という言葉が、日常やメディアの中でいっそう目立つようになった。「LGBT」は、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーといったセクシュアル・マイノリティの総称であり、いま、企業や自治体の「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性の受容)」施策は、そのLGBT対応に重きを置いている。LGBTに特化したシンクタンクとして、2016年に設立された株式会社LGBT総合研究所(博報堂DYグループ)代表取締役社長・森永貴彦さんに、企業のLGBT施策の現在形を聞いた。(聞き手/「Oriijin(オリイジン)」編集長 福島宏之)
LGBT施策の効果は、
目に見えづらく、数値化しづらい
――ここ数年の、企業がLGBTに向き合う姿勢の変化はいかがですか?
企業の関心は顕著に高まっています。
取り組み方には、社内と社外へのアプローチがありますが、多くの企業は社内アプローチに関心を寄せています。従業員向けに何をすべきか、何から始めるべきか、などです。現在は、社内の理解増進や啓発活動が多い模様です。
――そうした推進において、業種での偏りはありませんか?
業種による偏りはさほど見受けられません。
弊社にも、金融・建設・化粧品・ファッションなど、様々な業種の企業から「(LGBT施策を)始めたい」とご相談いただき、各社、施策に積極的に取り組まれています。
――LGBT施策に向けたシンポジウムやセミナーに参加された企業担当者は、どのような感想を寄せていますか?
セミナー参加前は「どう取り組んでいいか分からない」という声がほとんどですが、参加後は、「先行企業事例の共有で、取り組み方、ロードマップづくりに役立ちました」という声が上がります。
一方、「セミナーで好事例を知り、当社で真似したいと思っても、社内で賛同者がなく、前に進められない」といった切実な声も出ているのが実情です。
――社内でのコンセンサスが思うように取れない、と?
まず、経営層や管理職層に研修を実施し、その後、全従業員に拡大するケースが多いのですが、経営層や管理職層で必要性にストップがかかってしまい、動きづらいといった声が、アンケートから浮き彫りになっています。
こうした課題は、企業規模に関わらず、多くの人事担当者が少なからず抱えている悩みのようです。LGBT施策の効果は、目に見えづらく、数値化しづらいため、担当者が上層部にコミットできず、動けなくなる模様です。
――常日頃、森永さんは、効果が見えなくても、「企業が制度を作っておくことが大切」とおっしゃっていますね。
そうです。
利用者の出現の有無に関わらず、セーフティネット的に準備しておくことが重要と考えています。
企業の取り組みには予算がつきものですが、予算がなくても、まずは担当者が無料セミナー等で学んだ、LGBTに対する正しい理解を社内で継続的に発信する等、草の根活動は必要な第一歩かな、と。