「ダイバーシティ&インクルージョン」
という言葉が一人歩きしている
――LGBT施策のうえで、企業側が特に気を配りたいことは何でしょうか?
変な話ですが、効果を期待しないことが重要です。
施策に対し、社内でのカミングアウトが増えることを期待される担当者様も多いのですが、恐らく制度を整えても社内でカミングアウトされる方は少ないでしょう。カミングアウトはしなきゃいけないものではありません。カミングアウトしたい人が、カミングアウトできる風土を醸成しておくことが重要です。制度設計においても同様で、制度を必要とする人が、制度を求める時に、安心して申請出来る準備が重要なのです。効果は、時が来れば表れるもので、すぐに表れるものではありません。
――たとえば、企業内における密度の濃い理解増進方法は?
私たちも様々な工夫をしていますが、当事者との直接対話、そこで感じるリアリティに重点を置いています。研修や勉強会で、L・G・B・T各当事者を招待し、対話型の勉強会をしたり、ワークショップを実施したり、私はファシリテーターとしてサポートしていますが、当事者の方を目の当たりにすると、企業の従業員の方々の理解度は全然違うようです。
――この先、企業がダイバーシティ&インクルージョンをさらに目指していく中で、森永さんの気になることはありますか?
実は「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉の一人歩きに対し、少し不安を感じています。
多くの企業が急ピッチにLGBT対応を進めていますが、まずは正しい「理解」を丁寧に進めなければいけない、と。
性のあり方やLGBTの話は、先入観も強く、分かりにくいため、「何となく」語られてしまうことが多い。知ったような気持ちで当事者にメッセージを送ると思わぬ事故が起きたりもする。多様なセクシュアリティへの理解を急ぐ一方、「受容」を焦ったが故の誤解や偏見が残ってはいけないと思っています。「受け入れましょう」「認め合いましょう」の前に、まずは正しく理解しないと判断のしようもないだろうという見地です。
最も大切なのは理解であり、その後の「受容」は、個々人が自分の中で咀嚼した上で判断していけばいいと思います。
※本稿は、インクルージョン&ダイバーシティマガジン「オリイジン2018」の掲載記事を加筆修正したものです。