中国をどこまで
知っているか?
我々は中国をどこまで知っているのか。メディアにすり込まれたステレオタイプな中国人像で語ってないだろうか。上海の寿司屋、反日ドラマの日本兵役、山東省の田舎町にあるパクり遊園地の踊り子、上海の高級ホストクラブのホスト、爆買いツアーのガイド、留学生寮の管理人。七カ所の労働現場に入り込み、日本人が知られざる中国人の実像を描き出したのが本書『ルポ 中国「潜入バイト」日記』だ。
西谷格、小学館、252ページ、800円
「実像を描き出した」と、それこそ紋切り型な表現を使ってしまったが、本書は潜入ルポとして新鮮だ。潜入ルポといえば、『自動車絶望工場』のような骨太のノンフィクションの印象が強い。企業と労働者という対立構造を前面に押し出し、資本主義の闇を暴き出す。作品自体の惹きつける力は圧巻だが、いかんせん過酷さと鮮明な対立軸がつきもののため、読者と読むタイミングを選ぶ。新入社員が読んだら、「現代の企業は皆、悪だ」と一気に左傾化して、会社を辞めかねない。
本書の著者の場合、文体もあるが、正直、大変そうな感じがしない。そもそも、潜入している職場が楽しそうだし、本人は「二度とやりたくない」と言っているが、このノリならば普通に就職できそうである。楽しんで潜入しながらも、「ちょっとおかしくない、この職場?」と指摘する。これこそ21世紀の潜入ルポのあり方かもしれない。
もちろん、楽しげながらも、潜入の本来の目的を忘れていない。例えば、寿司屋への潜入では厨房で中国人の日本人との埋めがたい振る舞いの差を見逃さない。
“手が滑ってスプーンを床に落っことした。だが、床から拾い上げるとスプーンの表と裏を一瞬じっと見つめ、汚れがないことを確認すると、そのまま缶のなかに戻して使い続けたのだ”