財政規律の緩みが目立つ米国で、財政赤字拡大の現実を突き付ける予測が発表された。政治的な思惑に左右されない予測機関の存在は、事実を軽視するような風潮への稀有な防波堤になっているが、それだけに風当たりも強い。(みずほ総合研究所欧米調査部長 安井明彦)
フェイクニュース時代に孤軍奮闘
「良識の砦」CBOが突き付ける現実
財政規律の緩みが目立つ米国で、財政赤字拡大の現実を突き付ける予測が発表された。政治的な思惑に左右されない予測機関の存在は、事実を軽視するような風潮への稀有な防波堤になっているが、それだけに風当たりも強い。
2018年4月、米議会予算局(CBO)が財政見通しを発表した。そこで明らかにされたのは、悪化を続ける米国の財政事情である。CBOによれば、17年度に約6700億ドルだった米国の財政赤字は、20年度に1兆ドルを超え、予測の最終年度である28年度には、約1兆5300億ドルに達する。17年度に国内総生産(GDP)比で77%だった国債発行残高は、28年度には同96%まで上昇し、第二次世界大戦当時以来の100%台が視野に入るという。
目立つのは、前回の見通しからの悪化である。17年7月にCBOが発表した前回の見通しと比べると、向こう10年間の財政赤字予想額は、約1兆6000億ドル引き上げられている。17年度の実績を基準とすれば、前回見通しから半年強のあいだに、2年分以上の財政赤字が積み上げられた格好である。
見通し悪化の責任についても、CBOは明快な回答を示す。CBOによれば、財政赤字の見通しが悪化した責任は、ひとえに政治にある。昨年7月以降の政策変更によって、向こう10年間の財政赤字が約2兆6600億ドル増加したという。昨年末に成立した大型減税と、今年3月までに決められた歳出の拡大が主因である。彼らによれば、堅調な経済による税収増といった政策変更以外の要因は、財政赤字の予測額を縮小させる方向に働いたが、それだけでは焼け石に水だった。
特筆すべきは、こうした政権担当者にとって耳の痛い情報が、公的な機関から堂々と発表される米国の仕組みである。フェイクニュースが飛び交う米国で、CBOは事実に基づいた議論を守る良識の砦となっている。