翌日の会議終了後に、A課長はニコニコしながらC係長にすり寄って来た。

「いやーっ……C君、君の作った資料はとても好評だったよ。次回も頼むね!」
「エッ!?会議資料の作成は課長の担当ですが……」とC係長は怪訝そうな表情を浮かべながら言い返すと、A課長はイヤイヤと手を振り、笑いながら答えた。
「そんなことを言うなよ。俺、パソコン操作が苦手だし、資料作成なんてできないよ。C君は扱いになれているし、これからもチャッチャッと頼むよ。アハハハハ……」

 C係長は、その後もA課長から会議資料の作成を頼まれた。しかし、作成にはどんなに速くやっても最低2時間はかかるし、本来の自分の仕事もある。

 上司の頼みだからと仕方なくやっているうちに、課長は自分がやらなければならない決裁書類の整理や他部署からの問い合わせへの対処といった、他の業務までも押し付けてくるようになった。そして当の課長といえば、課員が営業先で買ってきた手土産のお菓子を我先にと頬張り、お茶やコーヒーを飲みながらご機嫌な様子で

「○○のかつ丼はボリュームがあって、あの濃厚なダシの味がサイコーだ」とか、
「○○レストランは、時間無制限で食べ放題だぜ。お得じゃない?」

 とグルメの話ばかり。

 最初は話に乗っていた課員たちも、課長が仕事をせずにグルメの話ばかりするので、次第にあきれるようになっていた。

得意先との大口契約時にも
その場で決済一つできず…

 ある日、C係長が1年前から接触していた得意先の乙社との大口契約にこぎつけた。A課長とC係長そして若手社員の3人は、営業車で乙社へ向かった。片道4時間かかる車の運転はC係長と若手が交代で行い、先方へのプレゼンから商談の終わりまで、一手に担ったのもC係長であった。

 一方、A課長は特段何もせず、「ランチはおいしいそばが食べたいね。いい所ないかな……」とスマホ片手に行く先で昼食の店探しに余念がなかった。

 乙社との商談は無事成立。ホッとしていると乙社の総務部長から追加注文を受けた。
「急きょ、機器を3台追加でリースしたいんだけど、リース料を値引きしてくれない?」

 総務部長が所用で10分ほど席を中座したところで、C係長はA課長に尋ねた。

「課長、追加注文なんてラッキーですよ、ぜひ話を進めましょう。ところで値引きですがどのくらいまでならOKですか?」

 A課長は、慌てて答えた。

「俺、そんなのわかんないよ。C君が適当に決めれば?」
「『適当に』と言われても困ります。この件は取引額が大きいので私には裁量権がありません。課長が決めてください」