B部長は、声を荒げた。

「できないで通用するか!できるように勉強したらどうだ?」
「できないと言ってるのに、無理してやらせようとするならパワハラですよ!労働基準監督署に訴えてやる!」

A課長の訴えは
はたしてパワハラになるのか

 A課長の処遇に頭を抱えたB部長は、大学時代の同級生であるD社労士を訪ねた。そして、課長がすべき業務を部下に押し付け、部下の不満が爆発していること、取引先に行っても、課長は先方とグルメの話をしていることなど、これまでの経緯を伝えた。

「とにかく課長としての仕事をやっていないわけか?」
「そうなんだよ。本人に何度も注意したが、聞く耳を持たない。そして最後は『パワハラ』扱いさ。課長のトンデモぶりに、課員からの苦情はひどくなるばかり……」
「大変だなあ」
「今すぐにでも課長職を辞めてもらいたいよ」

 部長は本心を漏らした。

「それで、Aさんに課長職を辞めてくれっていう話はしたのか?」
「ああ、このままだと課長は無理だって話したよ。そしたら『部長に課長を辞めさせる権限ってあるんですか?これもパワハラですよ!』だってさ」
「それで、B君はもう手がつけられないってわけか……」
「そうなんだ、俺がA課長に話している内容って、パワハラ扱いになるのか?」

 すると、D社労士は、ちょっと考えながら答えた。

「パワハラって、やった方じゃなくてやられた方が感じるものだからね」
「じゃあ、俺の場合は?」
「そうだね……。仕事の的確な指示だけで済んでいれば、パワハラとは言えないかな。でも感情的になったり、性格等の指摘までしたりするとよくないね」

 D社労士のアドバイスは以下の通りである。

 (1)A課長の入社以来の経歴について調べること
 (2)就業規則に「降格」記載があるかどうかを確認すること
 (3)降格させる場合に人事考課の基準があるかどうかを確認すること
 (4)課長から降格させる前に、教育を施すこと。パワハラ研修も取り入れること

 翌日、B部長はA課長の入社以来の経歴について詳しく調べた。大企業のように職務経歴書等は残されていなかった。しかし社員の定年退職で課長のポストがたまたま1つ空いたため、年功序列で昇任したこと、支店では営業を担当していたが、成績は芳しくなかったことがわかった。また、A課長と一緒に仕事をしていた仲間からの情報によれば、報告書や精算書といった簡単な書類作成はできるが、プレゼン用の資料が必要な時は、他の従業員が作成したものを借りたりして乗り切っていたらしい。総合的に判断した結果、Aは課長としては適任者ではないという結論に至った。