拙著、『知性を磨く』(光文社新書)では、21世紀には、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という7つのレベルの知性を垂直統合した人材が、「21世紀の変革リーダー」として活躍することを述べた。この第45回の講義では、「技術」に焦点を当て、新著、『東大生となった君へ―真のエリートへの道』(光文社新書)において述べたテーマを取り上げよう。
「東大神話」が崩壊する時代
世の中には「東大神話」という言葉がある。しかし、それは、文字通り「神話」であり、「真実」ではないことを意味している。
例えば、「東大を出れば、世の中で活躍できる」という神話。
この神話は、子どもを東大に入学させようとする父母の間では、いまも根強いようだが、残念ながら、これも真実ではない。
では、なぜ、こうした「神話=誤解」が生まれてくるのか。その一つの理由は、世の中で語られる二つの言葉が混同して使われるからであろう。
一つは、「求められる人材」という言葉。
一つは、「活躍する人材」という言葉。
この二つの言葉は、しばしば同じ意味のように使われるが、実は、全く違った意味の言葉である。
まず、「求められる人材」とは、文字通り、人材市場において、ニーズがあり、職に就ける人材のことだ。
これに対して、「活躍する人材」とは、自分が働く会社や組織、職場や仕事において、リーダーシップが発揮できる人材のことだ。
そして、いまの世の中における現実を述べるならば、東大卒の人材は、「求められる人材」になることはできるが、「活躍する人材」になることは、全く保証されていない。
言葉を換えれば、東大卒の人材は、どこかの会社に就職することはできるが、その会社でリーダーシップを発揮できるとはかぎらない。
筆者は、永年にわたり、民間企業で、マネジャーとして、経営者として、多くの東大卒の人材を見てきたが、それが、冷厳な事実だ。
そのことを象徴するのが、職場でしばしば耳にする、次の言葉であろう。
「あの人は、あれで東大卒なんだけれどもね…」
これは、「東大卒だから、もっと仕事ができると期待したのに、期待はずれだ」という意味に使われる言葉だ。最近、色々な職場で、この言葉を耳にする。いや、さらに、もっと厳しい言葉を耳にすることもある。
「あの人は、お勉強はできるが、世間知らずの東大卒なんだな…」
この言葉の意味は、説明するまでもないだろう。
では、せっかく「最高学府」と言われる大学を卒業し、「頭脳優秀」と言われる東大卒の人材が、あまり実社会で活躍できないという現実が、なぜ生まれてしまうのか。