東大卒社員について
語られない社内の「足跡」
東大出身の社員は企業に入社した後、どのようなキャリアを積んでいるのか――。これは、多くの会社員にとって関心のあることだろう。よくも悪くも、世の中の会社員は「東大卒」という肩書きを持つ人に嫉妬に近い眼差しを向けがちなものだ。
そうしたこともあるためか、雑誌などのメディアで東大卒のビジネスパーソンが取り上げられることも多い。しかし、そうした記事を読むと、彼らの現在の仕事や役職などは紹介されているものの、「入社後の足跡」がほとんど取り上げられていないことに気づく。彼らはどのような理由やいきさつで入社し、配属され、時には人事異動となったのか。そうした経歴が見えてこない。肉声や素顔がわからないことが多いのだ。だからこそ彼らは、世間からイメージ先行の評価をなされることも多い。
東大卒社員の動向を知ることは、企業社会における学歴の意味や価値などを考えるための一助になることは確かだ。そこで今回は、東大卒社員のキャリア形成に着眼した取材を企業に対して行なった。特に配属や人事異動を中心に尋ねた。昇格については、同期生などと比べて優劣が明確になる以前の時期の社員について聞くようにした。この時期が、学歴の意味を考える際に最も適していると考えたからだ。
もちろん、今回の取材だけですべてを正確に判断することはできないが、東大出身の社員の入社後の「足跡」を知る上で1つの参考にはなるはずだ。
取材を依頼したのは、アサヒグループホールディングス(アサヒビール)だ。次の条件を満たしていると思えたからである。
(1)大企業であること
(2)人事・賃金制度が大半の社員の意識に浸透していること
(3)社員の定着率が高いこと
(4)全社員に占める東大卒社員の比率が低いこと
(5)人事・賃金制度を取材者である筆者がある程度、心得ていること
(6)ここ5年の間に取材をした経験・回数などが5回以上であること
1~6までの条件をクリアしていないと、偏った内容の取材になる恐れがあり、1人の社員のキャリアを記事として明確に表すことはできないと思った。また、実名で紹介することもできないと判断した。
広報担当者から、IR部門のマネジャーである鷲森良太さん(38歳)を紹介された。1時間半にわたり、ヒアリングをした。