自然エネルギー活用の切り札とされている地熱発電の開発が大きく前進しそうだ。
環境省が3月末に各都道府県に通知した国立・国定公園内の地熱開発の規制緩和案によると、場所によっては発電所の設置や地熱貯留槽への「垂直掘削」を認める画期的な内容となっていたからだ。
実は2月時点では違った姿だった。専門家による検討会で政府が示したのは、公園外から斜めに掘る「傾斜掘削」だけを認める案だったのだ。
国立公園には、自然公園の核心部から順番に、特別保護地区と第1~3種特別地域と呼ばれる区域が設定されており、今回の規制緩和の対象は第2、3種特別地域。垂直掘削は真下の熱源に井戸を掘るため、技術的にも難しい傾斜掘削に比べてコストを抑制できるのが特徴だ。日本は世界3位の地熱資源量2300万キロワットを誇り、うち8割を占める国立・国定公園内の資源の多くが利用できるようになる。
なぜ規制緩和が急展開したのか。実は2月の傾斜掘削案は、「ほとんど何も緩和されていないに等しい」(地熱関連企業幹部)ものだった。傾斜掘削は2010年時点で規制緩和の方針が示されており、すでに着手している企業もある。新聞などは「傾斜掘削の解禁」と肯定的に報じたが、「発想を根本から変えないといけない」(外部委員)などの声が上がっていた。
その検討会で地熱推進派の委員らが垂直掘削の容認を強く唱えたことが、その後の“逆転劇”につながったようだ。事実、すでに出光興産が福島県内での大規模開発について県と検討を始めている。
ただ、環境省の案はあくまで「一部容認」の意味合いが強く、調査や試掘など各手順で環境への影響を政府が審査することや、温泉業者など地元の合意を得ること、景観を配慮することなど多くの条件をクリアしなければならない。真の普及には、環境にも優しい地熱発電の成功事例を早期に形成することが必要といえそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 森川 潤)