少し突き放したような印象を受ける言い方だが、そこにはBさんなりの、息子への信頼があるらしかった。
「もういい大人ですから、自分のやりたいことは好きに決めてほしい。結婚はあくまで選択肢のひとつ。マストでしてほしいというわけではありません」
とはいってもBさん、「孫の顔が見てみたい」とは思わないでもない。
「孫ができたら私たち夫婦は目に入れても痛くないようなかわいがり方をするだろうと、妻と話すことがあります。息子には厳しく接してきたつもりなのでその反動が出るかと。
でも、息子には『孫が欲しい』だなんて口が裂けても言わないつもりです。そういうところで、同じ男として息子の負担になりたくはない。妻は私のいないところで息子の結婚について話したりすることもあるようですが」
親の希望を叶えるのは子の喜びでもあるが、Bさんはそれを潔しとしないようである。
そんなBさんだが、息子の未婚についてはどのように考えているのか。
「世の中的に晩婚化が進んでいますから、まだまだ独身でいたいということなのでしょう。私たち親の世代も昔に比べて若返っています。60歳でもまだまだ現役という感じですし。一昔前の60歳とは印象が全然違う。だから『親が死ぬ前に』と、子どもが焦って結婚を急ぐことも少なくなったというのはあると思います。
息子もそうした世相を反映した今時の若者の典型なのだなと」
Bさんは子どもに結婚してほしいという願望が少ない分、息子の未婚について、やや客観視できるだけの距離を取れているようだった。