公務員試験、教員採用試験、会社内の昇進試験の受験者必読。
本連載では、元NHKアナウンサーの超人気講師で、毎年多数の小論文試験合格者を輩出する「ウェブ小論文塾」代表・今道琢也氏の新刊『落とされない小論文』から、内容の一部を特別掲載する。本番直前からでも、独力で合格水準まで到達するスキルと考え方をお伝えしていく。(構成:編集部)
「読んでもらう」意識が抜けている
文章は、読み手が読むためのものです。小論文試験の答案は、採点者に読んでもらうためのものです。そうであるなら、当然ながら、採点者が理解しやすいように順番や構成を整えて書くべきでしょう。
しかし、「読んでもらう」「理解してもらう」という意識の薄い答案が、意外なほど多いのです。採点者が読んで内容を理解することができなければ、どんなによいことが書いてあっても、評価は下がります。
ここでは、頭に入りやすい文章を書くための方法として、3つのアプローチを紹介します。
・「聞かれたことにストレートに答える」
・「話をかたまりで分ける」
・「どういう展開で話が進んでいるのかわかるようにする」
この3つです。
まず、だらだらとまとまらない話が続き、「採点者が理解しやすいように書こう」という意思や配慮がまったく見られない例を紹介します。その次に、改善例も掲載します。
【公務員試験の想定問題】
市民が公務員に期待していることは何か、あなたの考えを述べなさい。
【低評価の解答例】
公務員の仕事は近年ますます多様化している。予算や条例の原案作成や市の将来計画の策定といった政策的なことはもちろん、役所の窓口等での対応、苦情の受付など、さまざまである。どんな仕事であっても市民から寄せられる期待は同じだと考えるが、私は公務員として、その期待にしっかりと向き合っていきたい。
市民の多くは、公務員の仕事を理解し、協力してくれている。特別なことを求められているのではなく、一人ひとりの公務員が誠実に仕事にあたるということが大事だ。公務員は市民の税金から給料をいただいているので、ある意味でこれは当然のことと言える。誠実という意味にもいろいろあるが、自分の仕事を一生懸命にやるだけでなしに、パワハラ・セクハラをしないとか、あるいは私生活上においても飲酒運転をしないとか、コンプライアンスに関わることも含まれる。効率的に仕事を進めたり、改善策を提案したりすること、あるいは上の立場になれば後輩やスタッフなどの指導にも意欲的に取り組むことが必要だろう。最近では、職場のセクハラや飲酒運転などで処分されたり検挙されたりする例があとを絶たないが、これは市民の期待を裏切るものだ。
何事においても、公務員は自らを律して行動する必要があり、私はその点も十分に留意して仕事にあたっていきたい。(以上)
【高評価の解答例】
市民が公務員に期待していることは、特別なことではなく、「日々の仕事を誠実にこなす」ということだ。公務員の仕事は、予算や条例の原案作成や市の将来計画の策定、役所の窓口等での対応、苦情の受付などさまざまあるが、これはどんな職務にも共通して言える。そして「誠実」には、2つの意味が含まれている。
1つ目は、自分の仕事を一生懸命にやるという意味だ。公務員は市民の税金から給料をいただいているから、これは当然のことだと言える。どうすれば市の課題を解決できるか、どうすればもっと効率的に仕事が進むか、日々考え積極的に提案や改善をすること。また、上司の立場になれば、後輩やスタッフの指導にも意欲的に取り組まなければならない。
2つ目は、決してコンプライアンスに反することをしないという意味だ。パワハラ・セクハラをしない、あるいは私生活も含め飲酒運転をしないなど、仕事を離れた場でも公務員として見られていることを忘れてはいけない。公務員がセクハラや飲酒運転などで処分されたり検挙されたりするニュースをしばしば見聞きするが、このような問題が起きると、市民からの期待を裏切ることになる。
私はこれらの点に十分に留意して、日々の仕事に誠実に向き合い、市民の期待に応える職員になりたい。(以上)
「低評価の解答例」は、「市民が公務員に期待していることは何か」という問いに対して、答えが何だったのか、なぜそう考えたのか、はっきりわからないまま、文章が終わっています。
では、どうすれば「高評価の解答例」のような小論文が書けるのか。先ほど紹介した3つのポイントを順を追って説明します。
(1)聞かれたことにストレートに答える
聞かれたことにストレートに答えるためには、冒頭で余計なことを書かず、真っ先に結論を打ち出します。採点者は、「市民が公務員に期待していることは何か」という問いの答えがどこにあるのかに着目しながら答案を読みます。高評価の解答例のようにすれば、「なるほど、この答案はそれが言いたいのだな」と、初めに印象づけることができます。
(2)話をかたまりで分ける
次に、話をかたまりで分けていきます。
この答案であれば、次の4つのかたまりに分けられます。
(1)「市民が公務員に期待するのは日々の仕事を『誠実』にこなすこと」
(2)誠実の意味その(1)→「一生懸命に仕事をする」
(3)誠実の意味その(2)→「コンプライアンスに反する行動をとらない」
(4)上記を踏まえた全体のまとめ
そして、それぞれのかたまりに関する話をまとめていきます。
(1)「市民が公務員に期待するのは日々の仕事を『誠実』にこなすこと」
・公務員の仕事はさまざまあるが、どんな仕事にも共通している
(2)誠実の意味その(1)→「一生懸命に仕事をする」
・公務員は市民の税金から給料をいただいているので、当然のこと(理由)
・効率的に仕事を進め、業務の改善策を積極的に提案する。上司となったら後輩やスタッフの指導にも意欲的に取り組む(具体例)
(3)誠実の意味その(2)→「コンプライアンスに反する行動をとらない」
・このような問題が起きると市民の期待を裏切ることになる(理由)
・パワハラ・セクハラをしない。私生活も含め、飲酒運転をしない(具体例)
(4)上記を踏まえた全体のまとめ
・以上の点を十分に留意して日々の仕事をこなしていきたい
以上で、話の流れを決めることができました。
(3)どういう展開で話が進んでいるのかわかるようにする
(2)まで決めたら、最後に、この要素を加えます。
高評価の解答例では、「誠実に仕事にあたる」の「誠実」を、2つの意味でとらえています。そうであるならば、2つの意味を説明する前に「『誠実』には2つの意味がある」と書いておけば、読み手は「これから『誠実』を2つの観点から分析するのだな」と、中身を読む前に話の流れが頭に入ります。
さらに、誠実の2つの意味それぞれについて述べる部分の冒頭で「1つ目は……」「2つ目は……」、または「まず」「次に」という言葉をつけると、読み手は「1つ目が始まったな」「今度は2つ目だな」と話の展開が理解しやすくなります。
以上の内容を文章に落とし込んだものが、高評価の解答例です。
低評価の解答例と、高評価の解答例で、書いてある要素は何も変わりません。
しかし、整理をする前と後とでは、読みやすさがまったく変わっていることがわかります。
『落とされない小論文』では、このほか、小論文試験に一発合格する必要最低限の情報を凝縮して伝えています。ぜひ、直前対策に使い倒してください。