しかしながら、多くの上場企業では株式は広く個人に保有されており、それら個人投資家が声を上げる機会は実質的には年に1回の株主総会の場しかないのが現実だろう。

 しかも、機関投資家と違って個人投資家は情報量が少ない。その間隙を縫うかのように、昨今個人投資家の利益を損なうような経営の意思決定がなされている例が散見される。

個人株主の犠牲の上に
ファンドが1年半で3倍の利益!

 16年12月15日付の本欄(以下「前稿」)で取り上げた、東証1部上場企業である「さが美ホールディングス」(以下「さが美」)は、18年5月7日、株式会社ベルーナによる公開買い付けに賛同する旨を公表した。買い付け価格は1株あたり150円だという。

 ところが、さが美は、そのわずか1年半前の16年10月18日に投資ファンドであるアスパラントグループが運営するファンド(AG2)による1株56円でのTOBに賛同している。詳細は前稿に譲るが、当時、さが美の株価は100円台、平均株価(M&A実務における時価)は90円程度であったところ、当時約56%の株主を握っていたユニー・ファミリーマートホールディングス株式会社(以下「UFHD」)が大幅なディスカウントでの売却と、親会社貸し付けの債権放棄に応じたものだ。

 ところが、このTOBに対して、筆者が運営するニューホライズンキャピタル株式会社(以下「NHC」)は、時価である1株90円(債権放棄等、他の条件は同じ)での公開買い付けを提案していたにもかかわらず、UFHDやさが美は、「現にTOBが開始されておらず、開始される見通しもない」「さが美の経営陣との信頼関係がない」など、全く合理的でない理由に基づいて却下している。

 これらがいかに合理的な理由でないかの詳細な説明は前稿に譲るが、NHCは長年にわたって、さが美の経営陣と極めて友好的に対話を重ねてきており、AG2が公開買い付けを提案する数年前から時価での株主譲受(かつ債権放棄なし)を提案してきた経緯があることは改めて指摘しておく。

 一般論としてUFHDの取締役は、会社法330条、民法644条に定める善管注意義務を負っている。当時の企業再生支援ファンド「ニューホライズン2号投資事業有限責任組合」(NH-2)の提案は、AG2案に比べ、株式買い付け価格において60%も高いものであり、仮にNH-2からの提案を断る場合にはその善管注意義務に即して妥当なのかという問題が生じる。