ライバル企業のとらえ方について、上場直後のスタートアップ(ポストIPO企業)はどのように表明するべきか? また、社長の率直さは企業の魅力につながるのか? スタートアップ上場後の成長加速をテーマに活動するシニフィアンの共同代表3人が、『新興さんいらっしゃい』でポストIPOスタートアップのトップ20人超を取材して感じた、ポストIPO企業が自社の強みをアピールする大切さと難しさについて語るシリーズの最終回(全3回)です。(ライター:大西洋平)

ライバルがはっきりしないのか、はっきりさせたくないのか

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):上場したてのスタートアップの競合がはっきりしない理由は3つです。1つ目は「ニッチだから、今のところは完全に競合がいない」というもの。2つ目は、「競合は存在するが、あまりにも強敵すぎるため、『競合』といってよいか分からない」というものでしょう。ここには「リクルートやソフトバンク、楽天と競争するなら、まず勝てないよね」と投資家に思われてしまうのを避けたいという意識も働いているはずです。

 そして、3つ目は「現時点で存在しないものの、いずれはバッティングする潜在的な競合がいる」というパターンで、今後のことについてはあまく深く語りたがらないから、やはり競合関係が見えてこない。えてしてスタートアップは、競合することを大手に意識させてしまうと、まだ体力がないうちに潰されかねません。だから、うやむやにしておきたいという側面はわかるのですが、結果的にその会社のリスクとリターンがはっきりしないわけです。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):要するに、競合については言及したくないということですよね。素朴に「競合はいない」と信じたいのか、あるいは政治的な意味合いで意図的に触れないようにしているのかは定かでないけど。たとえば、今やほとんどのテクノロジー系企業は「Amazonが本格的に参入してきたら非常に厄介」といった領域がたくさんあるわけで、本来ならば、そのことに対して何も考えていないなんてありえない。だけど、外部にはどう考えているのかというポイントが伝わっていないし、奇妙なスコープで業界の実情をとらえているように思われることがある気がします。

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):ある意味でハッタリをかけなければいけないとか、背伸びしなければいけないとか、新興企業はコミュニケーションが規定されているように見受けられますね。

村上:個人的には、「競合はこの会社ですが、当社にはこのようなユニークさがあるから……」という話から入ったほうが聞く側も納得しやすいと思います。ひょっとしたら、誰かから妙な指導を受けているのかしれませんね。だって、「そんなことまで言ってはいけないのかと思っていました」とインタビュー時に驚いていた社長もいましたから。

 もう一つ、個人的な見解を述べさせてもらえば、その会社の善し悪しを判断するうえで、社長の受け答えや話しぶりがかなり影響してくるものだとインタビューを通じて実感しましたね。「事業内容はイマイチわかりづらいけど、この社長が率いているならうまくいくだろう」といった思考が投資家の間でも働く気がします。だとすれば、社長がどのようなスタイルでコミュニケーションを行うのかが非常に重要となりますね。

朝倉:必ずしも特定のキャラクターが好印象を与えやすいというものではなく、会社の事業内容にマッチしているか否かがポイントとなってくると思います。たとえば、社会性がなさそうで「この人、大丈夫かな?」と心配になる人であっても、ものすごくハイテクなことに取り組んでいたら、事業との一貫性を感じて納得感が高まるじゃないですか。

鋭い質問に社長は正面から答えるべきか?

村上:これまでのインタビューを振り返ってみても、こちらが鋭い質問で攻めた場合にサラリと交わして回答を避ける社長もいれば、「おっしゃる通りで苦労しています」と真正面から受けとめる社長もいましたよね。僕自身は、リスキーなことに挑戦しているフェーズだからこそ、後者のように明確に捉えている社長のほうがしっかりとした経営者だという印象を受けました。

小林:リスクについて語ると割り引かれた評価を受けるとか、そういった躊躇いがあるのかもしれません。だけど、「リスクなんてありません」と答えても、額面通りに受けとめる投資家はいませんよね。「リスクを認識したうえでどう対処するか」というスタンスのほうが、圧倒的にポジティブな評価を受けるはずです。

朝倉:「競合はいない。リスクもない」とあまりにも言いすぎると、「この人はどこまで現状を理解しているのか?」と不安に思ってしまうこともありますよね。

村上:それよりも、リスクについて明言できるコミュニケーション・スタイルのIRのほうが有効だと僕も思います。

小林:あるいは、「現時点では参入障壁がないため競合出現リスクはあるものの、先んじて圧倒的なマーケットシェアを獲得することでそのリスクは回避できる」という説明のほうが、投資家にはスッと入ってきやすいかもしれませんね。

ポストIPOならではのIR確立を!

小林:ここまでの話をまとめると、競合やリスクといった、自分たちにピンチをもたらしうるポイントについてきちんと認識している、というスタンスを示すのが大前提だということ。そのうえで、どう対処するというアングルまで加えられると、逆にポジティブなメッセージとして受けとめられうるという結論に達しますね。

朝倉:基本的に、これまで話を伺った会社はいずれも興味深いユニークなビジネスに取り組んでいて、端から見ていてはなかなか気づけないポテンシャルを秘めていることを知る機会も多々ありました。その分、インタビューは非常に面白かったですが、コミュニケーションの手法には疑問を感じる点があったのも確かです。僕には、IPOに向けたIR手法、ないしは大企業のIR手法を踏襲しているように思えました。しかし、まだまだ成長途上のポストIPOにとっては、その状況に即したコミュニケーションの方法論があるべきで、それがまだ確立されていないのが実情だということでしょう。IPOから次のフェーズに入った企業に相応しいIRの方法論を意識して築き上げていくことが大きな課題だと言えそうですね。

村上:とにかくいろいろな意味で、コミュニケーションに関してはモッタイナイと感じましたね。企業のサイズ的に機関投資家の投資対象となりにくく、もっぱら個人投資家に向けた訴求となることも関係しているのかもしれませんが、発信する側にまだまだ工夫の余地があるのは明らかでしょう。やはり、ビジネスは自分のことをわかってもらうのがスタートラインとなりますから。「ウチの製品のよさをなかなか理解してもらえないんだよね」と嘆いているケースと同じぐらいモッタイナイ話です。

小林:IRって、自分たちの会社を過剰によく見せることではなく、自分たちの会社について正当に伝えることですよね。そうするとリスクの分だけ割り引かれた評価になるかもしれませんが、大きく成長していくためにはさらなる資本調達も求められるわけで、現時点で過剰な期待値をあおって投資家を欺くことは、将来的な資本調達コストを上げることになりかねない。そもそも、自分たちのことを正当に知ってもらわなければ投資家の心を動かせません。だからこそ、ポストIPOならではの伝え方が求められるということですね。

*本記事の、前回前々回はこちらから!

*本記事は、株式公開後も精力的に発展を目指す“ポストIPO・スタートアップ”を応援するシニフィアンのオウンドメディア「Signifiant Style」で2018年5月27日に掲載された内容です。

朝倉祐介 シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て、政策研究大学院大学客員研究員。ラクスル株式会社社外取締役。Tokyo Founders Fundパートナー。

 

村上 誠典 シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県姫路市出身。東京大学にて小型衛星開発、衛星の自律制御・軌道工学に関わる。同大学院に進学後、宇宙科学研究所(現JAXA)にて「はやぶさ」「イカロス」等の基礎研究を担当。ゴールドマン・サックスに入社後、同東京・ロンドンの投資銀行部門にて14年間に渡り日欧米・新興国等の多様なステージ・文化の企業に関わる。IT・通信・インターネット・メディアや民生・総合電機を中心に幅広い業界の投資案件、M&A、資金調達業務に従事。

 

小林 賢治  シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県加古川市出身。東京大学大学院人文社会系研究科美学藝術学にて「西洋音楽における演奏」を研究。在学中にオーケストラを創設し、自らもフルート奏者として活動。卒業後、株式会社コーポレイトディレクションに入社し経営コンサルティングに従事。その後、株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、取締役・執行役員としてソーシャルゲーム事業、海外展開、人事、経営企画・IRなど、事業部門からコーポレートまで幅広い領域を統括する。