「どうすれば、一生食える人材になれるのか?」
「このまま、今の会社にいて大丈夫なのか?」
ビジネスパーソンなら一度は頭をよぎるそんな不安に、新刊『転職の思考法』で鮮やかに答えを示した北野唯我氏。
もはや、会社は守ってくれない。そんな時代に、私たちはどういう「判断軸」をもって、職業人生をつくっていくべきなのか。本連載では、そんな「一生を左右するほど大切なのに、誰にも聞けないこと」を北野氏が解説する。
資産10億円あっても「不幸な人間」
よく言われるように、世の中には金持ちが二種類います。
一つは高級サラリーマン。投資銀行やコンサルティングファームに勤めるような人たちで、20代でも年収2000万円ほどに届くといいます。
もう一つは「資産家」や「投資家」。不動産や、株などを保有する、ホンモノの金持ちです。私の友達には多くはないものの、このいわゆる「ホンモノの金持ち」の方がいます。
その中でもある人と話した時、印象的なことを聞きました。その方は40歳にして十分な資産を築き、リタイアして自由な生活をしていました。詳しい金額は聞きませんでしたが、ざっと10億円はくだらないかと思います。しかし、その方は言いました。
「人生に刺激がなくて、つまらない」と。
いわく、何をやるにも「緊張感」がないということでした。今回はこの「緊張感」という指標から転職のタイミングを紐解きます。
兵庫県出身。神戸大学経営学部卒。就職氷河期に博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。その後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年ハイクラス層を対象にした人材ポータルサイトを運営するワンキャリアに参画、サイトの編集長としてコラム執筆や対談、企業現場の取材を行う。TV番組のほか、日本経済新聞、プレジデントなどのビジネス誌で「職業人生の設計」の専門家としてコメントを寄せる。
ほとんどの人にとって、人生の満足度は「緊張と緩和のバランス」で決まる
かつてお笑い芸人の島田紳助氏は「紳竜の研究」というDVDの中で若い芸人の卵に向けて、このようなことを語っていました。「君たちは今、芸人で売れたいという夢があるだろ?それがめちゃくちゃ羨ましい。俺には金はある。でも夢はない。だから、もし10億円で買えるなら夢を書いたい」と。
初めてわたしがこの言葉を聞いたとき、正直「そんなわけあるか」と思いました。綺麗事に聞こえたわけです。しかし、時は経ち、自分が天職に近いものを手にした今、彼のいわんとしたことが少しだけわかって来た気がします。
それは人生の満足度というのは、いきつくところ「緊張と緩和のバランス」で決まるからなのです(厳密にはtodo型とbeing型のうち、99%を占めるbeing型の人間にとってですが。詳しくは『転職の思考法』をご覧ください)。
そして恐らく、島田紳助さんのようにお金を持ちすぎるとこの「緊張感」というのは極端に減ってしまう、その結果、「人生の満足度が急激に下がる」だから、「目標となるような夢がほしい」と思ったのではないかと思うのです。
同様に冒頭の10億円もってる友人が「人生に刺激がない」という発言はまさにこの状態を表していたと思われます。
ゲームから学ぶ、人生は「緊張と緩和」のバランスでできている
みなさんは、RPGゲームをしたことがあるでしょうか?
RPGゲームとは、主人公がある目的にしたがって、物語形式で進むテレビゲームをさします。ゲームというのはそもそも、人間を楽しませ、熱中させるためだけに生まれてきたわけなので、逆説的にいうと、ゲームを研究すれば、「人生をいかに楽しむか」のよいヒントがもらえます。
結論を言うとゲームとは「緊張と緩和」の繰り返しでできています。弱い敵を倒し、レベルを上げ、強い敵に挑む(緊張)。そのあと、一休みして(緩和)からまた、旅に出かけ、強い敵に挑む(緊張)。この繰り返しです。
そして、実はこれはゲームに限りません。振り返ってみると「緊張と緩和の繰り返し」とは、人生そのものです。勉強して、テストを受け、休む。部活であれば、練習をして、試合に挑み、休む。仕事であれば、仕事の準備をして、大事なプレゼンをする。
緊張が強すぎれば、人は疲れてしまいますし、逆に緩和が多すぎると、ダレます。このバランスは人によって最適な部分が異なり、各人にとっての最適なバランスが存在します。
つまり、満足度の高い人生とは「最適な緊張と緩和のバランス」がある状態なわけです。このバランスが崩れたときが、その人にとっての「転職のタイミング」です。
社内にだけ向いた「緊張」が年10回以上あれば、今すぐ転職すべき
具体的には、この半年間で「緊張を感じた瞬間」「プレッシャーを感じた瞬間」をできる限り書き出しましょう。そのうえで、それを「良い緊張か、悪い緊張か」に振り分けます。
では、良い悪いは何を基準に考えればいいのか?
結論から言えば、「視線が社内と社外どちらを向いているか」によって決まります。具体的には社内だけに向けた緊張であれば「悪い」であり、社外を向いていれば「良い」という分類になります。
たとえば、以下のようになります。
・上司への数字報告で毎回詰められるため、ビクビクしながらプレゼンした→社内だけ向いているため、悪い
・クライアントへの重要な提案だったため、プレゼンの際は強い緊張を覚えた→社外を向いているため、良い
そして半年の間に10回以上悪い緊張があったとしたら、それは恐らくややネガティブな理由から転職すべきタイミングです。
反対に「良い緊張感」が5回以下であれば、それは今のあなたにとっては簡単すぎ、ポジティブな意味で転職すべきタイミングだと思われます。
あなたを求めている会社が世界のどこかにあるかもしれない
転職とはいきつくところ、二つの側面があります。
一つはこの「緊張と緩和」のバランスを整えることです。場所を変えることは、適切なタイミングで「良い緊張」を得るということでもあります。
二つは、社会全体で人員配置を最適化することです。実際に転職者をみていると、今の会社では活躍できていなくても、転職することで活躍するケースは本当に多くあります。
最後のメッセージはこうです。
あなたを求めている会社が世界のどこかにあるかもしれない。
今いる場所での価値があなたの価値ではありません。多くの人の転職を見てきた今、そうはっきりと断言できます。