数ヵ月の交渉の末、売買が成立した。70代半ばにして現役に復帰したのである。

 すると、岡さんの経営者魂に火が付いた。次々と新しい手を打ち始めたのである。それまで店頭販売のみだったが、店の奥にあった工場をレストランに改装。天ぷらや刺し身をメーンとし、焼きたてのだし巻き卵と8種の総菜の盛り合わせをセットにした定食メニューも提供するようにした。

「これだけ人が歩いている通りで店を工場にしてたらあかん。ここをレストランにすれば売り上げは上がるし、前日に作った商品を翌日の定食で出せばロスもなくなる」

 岡さんにはもう一つ狙いがあった。インバウンドだ。以前の総菜店では食べる場所がないため、買いに来るのは地元の人ばかりで、外国人は素通りしていた。レストランを造り、メニューを多言語化。中国語や英語を話せる外国人スタッフも雇用した。狙いは的中し、現在、レストランの利用客は1日平均170人。総菜の廃棄がなくなり、利益率も改善した。

 買収から1年2ヵ月、錦平野の月商は2500万円から4000万円に跳ね上がった。

「忙しくなって従業員も喜んでいるし、新しく若い人が入ってきてくれている。うれしいもんですよ」と岡さんは笑う。

 岡さんは会社を買収して経営者になるという形で、76歳を過ぎた今も現役で働き続ける道を選んだ。

普通のサラリーマンに会社経営ができるのか

 何の経験もないのに、いきなり会社を買って社長になれるわけがない──。

 長年会社勤めをしてきた世の中のほとんどの人は、自分が社長になることなど考えたこともないに違いない。しかしこの選択肢は、決して実現不可能な夢物語ではない。今、個人でも会社を買収できる環境が整ってきているからだ。

 日本の中小企業の半分は廃業の危機にある。その約7割は個人企業だ。他方、休廃業企業の半分は、驚くべきことに黒字経営なのである。なぜ黒字なのに廃業するのか。後継者が見つからないからだ。