「モノが売れない時代になった」と言われて久しい。しかし、それでも常に行列の絶えないお店があり、成長し続ける会社があり、結果を出し続けるビジネスパーソンがいる。商品の「値段」や「質」がほとんど変わらなくても、売れる人と売れない人、繁盛しているお店とそうでないお店がある。
これは、なぜなのか?
本連載では、プルデンシャル生命2000人中1位の成績をおさめ「伝説のトップ営業」と呼ばれる川田修氏が、あらゆる仕事に通ずる「リピート」と「紹介」を生む法則を解き明かした話題の新刊『だから、また行きたくなる。』から、内容の一部を特別掲載する。(構成:今野良介)
お客さまは「商品以外の要素」で
サービスを評価している
私が営業活動でいつも意識している2つの考え方があります。その1つが、前回の記事『普通の仕事を「少しだけ」超えてお客さまに選ばれる方法』でご紹介した「レベル11」という考え方です。
レベル11とは、ある職業について持っているイメージをほんの少し超えることで、お客さまの心を動かすこと。そうお伝えしました。
この記事では、もう1つの考え方についてお伝えします。
商品の質や価格で差別化しにくくなった今、私たちとお客さまを結んでいるものは、商品や価格だけではありません。お客さまは、商品以外の、その空間にあるすべてを敏感に感じ取っているのです。
そして、お客さまの心が動くタイミングは、時系列に沿った3つのステージに分かれています。
その3つのステージを、私は「先味」「中味」「後味」と呼んでいます。
私は、この世にあるすべての消費活動が、この3つの「味」の評価によって行なわれていると考えています。お客さまは、この3つの「味」を順番に味わって、「そこで買うか」「もう一度行くか」、営業などの接客業なら「その人を信用するかどうか」までを判断しているのです。
つまり、3つの味に、より多くのレベル11を感じたときに、お客さまは、もう一度行きたくなったり、誰かにおすすめしたくなったりするのです。
私は、営業の現場においてのお客さまとの関わっている時も、そして私自身が「お客さま」の立場になったときも、この視点を持って商品やサービスを観るようにしています。
では、先味・中味・後味とは、どのタイミングのことなのか?
私はラーメンが大好きなので、ラーメン屋さんの例で説明させていただきます。
「先味」=商品やサービスに触れる前に感じるもの
私は携帯のラーメンサイトに登録していて、営業でいろいろな場所に行っては、地元のおいしいラーメン屋さんを調べています。その地域で評判になっているお店を探して、実際に食べに行くのです。
地図を見ながら進んでいくと、住宅街の狭い路地に入ったりします。
本当にこんなところにお店があるのかな……。
なぜか不安よりも期待が膨らんでいます。
「おっ! あった、あった」
お店の佇まいがちょっと古かったりすると、さらに期待度がアップします。
しかも、お昼時をちょっと外した時間なのに、外に3、4人並んでいる……。
……すでに、ちょっとおいしそうな感じがしてきませんか?
お店の中を外からちょっと覗いたりすると、メニューはたったひとつ。古い木の板に「ラーメン」とだけ書いてあります。味噌とか、とんこつ醤油とか、他の味はなくて、餃子もチャーハンも出していません。さらに期待が膨らんできます。
まだ食べてないのに、おいしそうな感じがして「これはアポイントを少しずらしてでも食べたいなあ」なんて気持ちになってしまいます。
さて、私の順番が来ました。
「ラーメン1つください」と頼んで、席に座ります。
カウンターの中では、おじさんが黙々と、ひたすらラーメンをつくっています。着ているTシャツは、くたびれた感じ。こだわりの職人のような雰囲気を醸し出しています。
「もう、これは絶対においしい」
そんな気持ちになってきます。
……あれ? でも、私はまだ何も食べていませんよね。
なのに、もう「おいしい!」と感じています。
商品を手に取る前の段階で、すでに気持ちができあがっている。
この、商品やサービスを購入する前、直接のコンタクトを取る前に感じる味。
これが「先味」です。
先味が、商品への期待感を高めるのです。
「中味」=商品やサービスそのものに触れている
ときに感じているもの
そして、実際にラーメンを食べます。
スープ、おいしい。麺、おいしい。具、おいしい。
これが一番大事なことは言うまでもありません。
結局、まずかったらダメですよね。
でも、期待感が高まっていると、実際よりもおいしいと感じてしまったりするものです。
これが「先味」のプラス効果です。
当然、一番大切なのは、商品のよし悪しです。しかし、商品に接しているときも、大切なものは商品だけではありません。スープを飲むレンゲがいつもきれいに置かれていたり、コップの水がなくなったら、こちらからお願いする前にサッと水が注がれたり、女性が髪を束ねるためのヘアゴムが置いてあったり、店員さんの対応が元気で気持ちが良かったり……。
そういうことも、食べている間に、味を引き立てていると思うのです。
商品そのものを味わっている以外にも、自然とその評価を上げたり下げたりする要素がある。
これが「中味」です。
「後味」=商品の魅力を味わった後に感じるもの
p>「やっぱり来て良かった。ふぅ~、ごちそうさまでした」
私は満足げにお店を後にしようとします。
ここからが「後味」です。
丼をカウンターに上げて帰ろうとしたら、黙々とラーメンをつくっていたおじさんが言いました。
「ありがとうございます。また来てください」
私は、ちょっと不思議に思います。
「自分に言ったのかな? 他のお客さんには別に何も言ってなかったのに……」
そう思って帰っていきます。
そして後日、ガイドブックの紹介文なんかを読んで、こんなことを知るのです。
「このラーメン店の店主は、初めて来たお客さんなのか、2回目以降のお客さんなのか、すべて覚えている。初めてのお客さんにだけ『また来てください』と声をかけるのだ」
私なら、身震いしてしまいます。
これはもう、ラーメンの味とは全然関係ないですよね。
これが「後味」なんです。
そして後日、「この前、ラーメン食べに行ったんだけどさ、そのお店がさあ……」なんて、周りのみんなに話しちゃったりします。
つまり、人に紹介しているのです。
頼まれてもいないのに、勝手に宣伝しているんです。
そのとき人に話すことは、ラーメンそのものの美味しさよりも、むしろ、1つしかメニューがないことや独特の店構え、店主さんが初めて訪れた人にだけ声をかけることなどになってしまいます。
つまり、商品以外の先味、中味、後味で感じたレベル11の話を、人に伝えたくなるのです。
このように、私たちは、無意識のうちに3つの味を評価しながら、「また行きたい!」「人に伝えたい!」と思っています。売れる人や売れるお店は、ほかと同じ商品を売っていても、商品以外の「3つの味」の味付けをおいしくすることに長けているから、選ばれるのです。
拙著『だから、また行きたくなる。』では、こうした「ちょっとした工夫」で、私自身が心を動かされ、実際にたくさんのお客さまが集まっているお店やサービスを、一流ホテルから、知られざる小さな飲食店まで、50以上、写真入りで紹介しています。
もっと仕事で成長したい。
もっと売上を伸ばしたい。
もっとお客さまに喜ばれるサービスをしたい。
もっといい会社にしたい。
もしあなたがそう願っているのなら、そのヒントを、本書の中に見つけていただくことができるはずです。