「モノが売れない時代になった」と言われて久しい。しかし、それでも常に行列の絶えないお店があり、成長し続ける会社があり、結果を出し続けるビジネスパーソンがいる。商品の「値段」や「質」がほとんど変わらなくても、売れる人と売れない人、繁盛しているお店とそうでないお店がある。これは、なぜなのか?

本連載では、プルデンシャル生命2000人中1位の成績をおさめ「伝説のトップ営業」と呼ばれる川田修氏が、あらゆる仕事に通ずる「リピート」と「紹介」を生む法則を解き明かした話題の新刊『だから、また行きたくなる。』から、内容の一部を特別掲載する。(構成:今野良介)

お客さまの頭の中には
「普通」の基準がある 

私の頭の中には、常に「レベル10」と「レベル11」という考え方があります。
レベル10とは、その職業における一般的な水準。
つまり、お客さまが「普通だな」と感じるサービスレベルのことです。

重要なことは、この「普通だな」という感覚が、大多数の人の頭の中に共通認識としてあるということです。

そして、お客さまの頭の中にあるレベル10を、ほんの少しだけ上回ること。それがレベル11です。頭の中に「普通はこういうもの」というレベル10の感覚があるために、ほんの少しの違いでも、お客さまは敏感に感じ取るのです。

私は、すべての職業に、このレベル10とレベル11があると思っています。

私たちは、常に「サービスを提供する側」と「サービスを提供される側」という2つの顔をもっています。「提供される側」にいるときは、生活の中で、日常的にレベル11を感じ、心を動かされる経験をしています。でも、「提供する側」の立場になると、それを忘れてしまいがちになるのです。

今から、あなたの中にも「レベル10」の感覚があるということを、実際に体験してもらいたいと思います。

あなたは、どんなサービスを受けた時に「また行きたい!」と思いますか?

「普通の仕事」の基準がわかる「4つの質問」

家電量販店に、スマートフォンを買いに行くときのことを想像してみてください。
あなたはお客さまです。重要なのは、顧客目線になって考えることです。

商品を見ていると、店員さんに声をかけられました。

「スマートフォンをお求めですか?」

さて、ここから、次の4つの質問に答えてみてください。
 

【質問その1】
家電量販店の店員さんは、どんなシャツを着ていますか?

(1)いつもクリーニングの効いた、パリッとしたシャツを着ている
(2)自分でアイロンをかけたくらいの、もしくは少しヨレッとしたシャツを着ていることがある
 

【質問その2】
その家電量販店の店員さんの商品知識は、豊富でしょうか?

(1)商品に関する知識は豊富で、質問に答えてくれる
(2)商品知識が乏しく、あまり詳しくない
 

【質問その3】
その店員さんが、商品を説明してくれるときの姿勢は?

(1)直立でまっすぐ背筋を伸ばし、足を揃えた姿勢で説明してくれる
(2)少し体勢を崩した、リラックスした感じで説明してくれる


講演などで「質問その1」を問いかけると、ほとんどの人が(2)自分でアイロンをかけたくらいの、もしくは少しヨレッとしたシャツを着ていることがある、に手を挙げます。

「質問その2」については、多くの方が(1)商品に関する知識は豊富で、質問に答えてくれる、に挙手されます。

「質問その3」に対しては、(2)少し体勢を崩した、リラックスした感じで説明してくれる、に手を挙げられます。

すでに、不思議なことが起こっています。
不思議じゃないですか? 
みんなが同じお店の、同じ店員さんに接客を受けたわけでもないのに、多くの人が、同じイメージを抱いているのです。

このイメージは、実は、業種によって違います。
業種を変えて、「質問その3」と同じ質問をしてみましょう。
 

【質問その4】
高級ホテルのリッツカールトン大阪のドアマンが、お客さまを迎える姿勢は?

(1)直立でまっすぐ背筋を伸ばし、足を揃えた姿勢で出迎えてくれる
(2)少し体勢を崩した、リラックスした感じで出迎えてくれる


どうでしょう、さっきの家電量販店の店員さんと同じイメージでしたか?

おそらく(1)直立でまっすぐ背筋を伸ばし、足を揃えた姿勢で出迎えてくれる、と思った方が多いと思います。講演でも、同じ姿勢に関する質問なのに、リッツカールトン大阪のドアマンだと、ほとんどの方が(1)に手を挙げるのです。

では、もう1つだけ、「質問その4」に(1)だと答えたみなさんに質問です。

「実際に、リッツカールトン大阪に行ったことがある人?」

この質問には、ほとんどの人が沈黙するのです。

どういうことでしょうか?
行ったこともなければ見たこともない。それなのに、サッと手を挙げるのです。

実は、私自身、実際にドアマンがいるのかどうかも知らないで質問しています。私も、リッツカールトン大阪に行ったことがないからです。それでも、私の中にもみなさんの中にも、同じ「レベル10」があると思って質問しているのです。

そうなんです。つまり、「この職業の人は、こういう感じ」と、多くの人々が、さまざまな職業に対して、無意識のうちに、ある特定のイメージを抱いているのです。

お客さまはいつも、あなたに対して、この仕事は、これが普通と、「期待の基準値」を頭の中に持ちながら目の前にいるのです。これが、レベル10です。 

「普通」をほんの少し超えるだけで、
お客さまの心が動く

さて、先ほどの、「シャツは少しヨレッとしていて、少し姿勢も崩れ気味、でも商品知識は豊富」な、あの家電量販店の店員さんの話に戻ります。

あなたは、お望みの商品を選び、店員さんはあなたを連れてレジ担当にバトンタッチします。
通常は、それで、その店員さんとの接点は終わりですよね。ところが。

お会計を済ませて、お店を出ていこうとすると……

「◯◯様!」

と、どこからともなく、あなたを呼ぶ声がします。
振り返ると、さっきの店員さんが小走りにやってきて、こんなふうに言うのです。

「本日は、数多くあるお店の中から当店をお選びいただき、誠にありがとうございました。◯◯様にご縁をいただき、私△△が接客させていただきましたが、いかがでしたでしょうか。また、何かご入り用の際は、当店に足を運んでいただいて、◯◯様とご縁をいただけますと幸いです。本日は誠にありがとうございました」

そして、それはそれはていねいに、お辞儀をするのです。
お店を出てから振り返ると、深々と頭を下げて、あなたが帰るのを見送っています。

「やけにていねいな店員さんだなあ」

そんな気持ちでお店をあとにすると、ふと、あることに気づくのです。

「あれ? あの店員さん、なんで自分のことを名前で呼んだんだろう?」

接客してもらっているときに、名乗った覚えはありません。

「そうか……。あの店員さんは、私を気にかけるだけでなく、レジに寄って、カードのサインや領収証から私の名前を確認して、それで最後に名前で呼んだんだ!」

そんなことに気づくと、私なら、その日会社に戻って、後輩に「今日、こんなことがあってさあ!」と話したくなってしまいます。これって、「紹介している」ということです。

次、何か必要な家電があったときに、つい、その店員さんの顔が浮かんでしまいます。これって、「リピートしようとしている」ということです。

ちょっと考えてみてください。
この店員さんが提供してくれたことは、何でしょうか?

商品を、より良いものにアレンジしてくれたわけではありません。
こっそり大幅な値引きをしてくれたわけでもありません。
ほかのお店で買っても、おそらく商品の質も値段も、さほど変わらなかったでしょう。

なのに「このお店で買って良かった」と満足している。
「またその人から買いたい」と思ってしまう。
不思議ですよね。こちらは何も「得」はしてないんです。

その店員さんは、レジ担当にバトンタッチしたあとも、あなたを気にかけていて、帰り際にていねいに感謝を表現した。今まで接してきた店員さんとは、ほんの少し「何か」が違っていた。

たったそれだけのことですが、「普通」をちょっとだけ超えたことをするだけで、お客さまの心を動かした。これが、レベル11です。

この、ほんの少しの違いが、お客さまに小さな感動を提供して、やがては大きな差を生んでいくのです。

拙著『だから、また行きたくなる。』では、こうした「ちょっとした工夫」で、私自身が心を動かされ、実際にたくさんのお客さまが集まっているお店やサービスを、一流ホテルから、知られざる小さな飲食店まで、50以上、写真入りで紹介しています。

もっと仕事で成長したい。
もっと売上を伸ばしたい。
もっとお客さまに喜ばれるサービスをしたい。
もっといい会社にしたい。

もしあなたがそう願っているのなら、そのヒントを、本書の中に見つけていただくことができるはずです。