「監督に求められる力が変わってきた大会と言えばいいのかな。ボードに戦術を書き込むだけでも、選手たちの士気を上げるモチベーター役を担うだけでもない。チーム全体を納得させる力というか。そういうものがないと説明できない、と強く感じました」

 23人もの代表メンバーがいれば、さまざまな考え方がチーム内に存在するようになる。試合に出られる選手と、ベンチから声をからす選手との温度差も少なからず生じてくる。放置しておけば不協和音が飛び交いかねない状況で、すべてを超越した部分で組織をまとめ上げなければ、ワールドカップのような短期決戦を勝ち抜くことは難しい。

 例えば連覇を期待されながら、グループFの最下位でまさかの敗退を喫したドイツ代表。開幕前にトルコ系ドイツ人のメスト・エジル(アーセナル)、イルカイ・ギュンドアン(マンチェスター・シティ)の主力2人が、独裁的な政治手法で国際社会から孤立しつつあるトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領を表敬訪問したことが、決して小さくはない波紋を生じさせた。

 特にギュンドアンがマンチェスター・シティのユニフォームに記した、「私の大統領へ」というメッセージには本人の思いを超える形で大きな批判が集中した。移民大国でもあるドイツが長く抱えてきた、国民の融合という大問題に、図らずも亀裂を生じさせてしまったからだ。

 2006年7月からドイツ代表の指揮を執る長期政権を樹立。前回ブラジル大会では、南米大陸で開催されたワールドカップで初めてヨーロッパ勢を優勝させた名将ヨアヒム・レーヴ監督をしても、23人全員を納得させて目の前の戦いに集中させる作業は困難を極めたことになる。

 翻ってロシアを率いたスタニスラフ・チェルチェソフ監督の熱すぎる一挙手一投足からは、曹監督が指摘した「納得させる力」がひしひしと伝わってきた。スキンヘッドに口ひげが印象的な54歳の指揮官は、現役時代はロシア代表の守護神として2度のワールドカップに出場している。

 代表でプレーした経験こそないものの、クロアチアのズラトコ・ダリッチ監督の国籍もクロアチアだ。実はクロアチアは22人で今大会を戦っている。ナイジェリア代表とのグループリーグ初戦で、背中の痛みを理由に途中出場を拒否したFW二コラ・カリニッチ(ACミラン)を、問答無用で代表チームから追放していたからだ。

 カリニッチは大会前のテストマッチから、サブ的な立場に不満を示していた。個人的なエゴを捨てて戦えない選手は不要、とばかりに強制送還したダリッチ監督の厳格な姿勢が「納得させる力」へと変わり、選手たちをより一致団結させたことは容易に察することができる。