関東甲信越地方では観測史上最も早く梅雨が明け、全国各地で気温35度以上の猛暑日が続いており、「汗」に悩まされている人は少なくないだろう。なるべく汗はかきたくないものだが、汗には重要な役割があり、むしろ汗が出なければ大きなトラブルにつながりかねない。そこで、気になる汗のメカニズムと、汗や皮膚にまつわる疾患について、長崎大学大学院医師学総合研究科の室田浩之教授に話を聞いた。(聞き手/医療ジャーナリスト 渡邉芳裕)
汗は「体の温度を下げる」だけでなく
肌の「保湿作用」「免疫機能」もあった
――暑くなると大量に汗が出てうっとうしいものですが、汗は体にとってどんな役割がありますか?
汗は「におい」や「汗染み」などのように嫌な面に注目が集まりがちですが、体が健康な状態を維持するための大切な役割を持っています。
代表的な汗の機能をいくつか挙げるとすると、まず1つ目に「体温調節」の機能があります。例えば真夏の暑い日に家の軒先に打ち水をしたり、霧状の水を浴びると涼しくなったりといった体験をされたことがあると思います。水が蒸発するときに生じる気化熱は、地面から熱を奪い、温度を下げます。汗にも同じような効果があり、体温の上昇に伴い汗をかくことで生じる気化熱を利用して皮膚を冷やし、体温の調節をしています。通常、健康な人であれば環境と体温上昇に応じて、暑い日にはその分たくさん汗をかいて体温調節をしているのです。
2つ目に、汗には「保湿」作用があります。人間のほぼ全身の表面に分布しているエクリン汗腺から作られる弱酸性の透明な体液である汗には、主な成分としてナトリウム、カリウムなどの電解質、尿素、ピルビン酸、乳酸、抗菌ペプチド、タンパク分解酵素、タンパク分解酵素を阻害する物質などが含まれています。とりわけ豊富に含まれている乳酸ナトリウム、尿素は水との親和性が高く、天然保湿因子として皮膚の潤いを維持する作用に貢献しているのです。皮膚の保湿にはこういった汗の成分が大きく貢献しており、汗をかけない人はドライスキン、つまり、乾燥肌になっていきます。
そのほかの汗の機能として、病原体から体を守ったり、皮膚を潤したりすることで健康な皮膚の状態を保つ作用があります。このことから汗は最前線で体を守る免疫システムの1つといっても過言ではないと思います。