すぐに業者の手引きで、男性とともに上海市内の観光地を巡り、“カップル写真”を何十枚も撮った。「日本の入管厳しいから、夫婦らしい写真をたくさん撮っておく。ニセモノのラブレターも書かせられたよ」。ホナミはそう言って笑った。

 当然、彼女の中では最初から“偽装結婚”だった。こうして数ヵ月後には無事、在留資格が下り、来日を果たしたのである。

本物の結婚と信じていた男
最初から偽装のつもりの女

 問題はホナミと結婚した男性だった。仮にY氏と呼ぼう。Y氏はこの結婚を「本物」と思っていた。ホナミの来日と同時に幸せな新婚生活を送れるものだとばかり思っていたのだ。

 99年の冬、筆者はホナミの了解を取った上で、Y氏に話を聞いたことがある。怒り心頭の言葉が忘れられない。

「完全にだまされた。あの女と一緒に住んだのは最初の2週間だけ。そのあとは、月に1回か2回、掃除しに顔を出すだけだ。いつも派手な格好して、煙草吸いまくって、最低の女だ。離婚しようって言ったら、毎月5万円あげるから永住権取るまで待ってくれだって。最初から偽装だったんだ。もう我慢できない」

 これは特異な例ではない。当時、Y氏のような“被害者”は少なからずいた。生真面目でウブなタイプの高齢者が多かった。結局ホナミはY氏と離婚した。「偽装結婚だと入管にバラす」と脅され、ホナミ自身が耐え切れなくなったのだ。

 離婚してしまうと在留資格を失ってしまう。結婚ビザが失効する前に何らかの手を打たなければ、帰国するか、不法滞在になるしかない。しかし、当時の中国人たちにはさまざまな裏の“オプション”があった。

 ホナミはデートクラブで知り合った、不動産会社を経営する男性客に取り入って、その会社の社員としてもらった。もちろん形だけである。1年ほどさかのぼって偽造の給与明細なども作ってもらい、勤務実態があるかのごとく装った。そして離婚後、これらの資料一式を携えて入管へ行き、「定住ビザ」への切り替えを行ったのだ。

 1年あるいは3年ごとの更新を要する在留資格の一種だが、これで何とか日本滞在の「身分」を確保することができた。