3層構造で事業化を目指す
『「知」の集積と活用の場』
農林水産・食品分野に、他の分野のアイデアや技術を導入して革新的な研究成果を生み出すと共に、それらを商品化・事業化に結びつけようとする新しい産学官連携の仕組みが、農林水産省が主導する『「知」の集積と活用の場』だ。
「『知』の集積と活用の場」のプロジェクトは、3層構造で展開されている。①産学官連携協議会の活動、②研究開発プラットフォームの活動、③研究コンソーシアム(リサーチプロジェクト)の活動だ。①から②、③へと進むにつれて取り組みがより具体的で、成果目標もはっきりとするイメージだ。
産学官連携協議会は、生産者、民間企業、大学、研究機関、地方自治体などさまざまな関係者が集う。協議会に会員として入会し、協議会が主催するセミナーやワークショップなどによる会員間の交流を通じて研究開発プラットフォームの形成を促進するのが狙いだ。協議会の初代会長に三菱ケミカル、2代会長に前川製作所の役員が就任していることからも分かるように、民間企業、特に電機・精密機器の製造業や化学工業など多様な分野の関係者を参集させようとしている。現在、会員は約2500(法人、個人)。
次のステップとして形成されるのが研究開発プラットフォームで、ここでは活動を主導する「プロデューサー」を中心に、そのもとで商品化や事業化のための研究開発戦略が策定される。現在、設定されているプラットフォームは121(取材時)ある。
具体的には7領域に分けられるが、例えば「健康長寿社会の実現に向けた健康増進産業の創出」領域では、「腸内環境・腸内微生物を標的にした高機能農林水産物開発」「健康長寿社会の実現に向けたセルフ・フードプランニング」などのプラットフォームが活動中。また「農林水産業の情報産業化と生産システムの革新」領域では、「Society5.0におけるファームコンプレックス研究開発」「建設機械の農業利用研究開発」などのプラットフォームが活動している。
ちなみに産学官連携協議会は、各プラットフォームのプロデューサーを招集して会議を開催するなどして活動を促進することにより、具体的なプロジェクトの実施に向けた働きかけを行っている。
プラットフォームの戦略に基づき、具体的なプロジェクトを行うのが研究コンソーシアム(リサーチプロジェクト)だ。簡単に言えば農林水産省等からの研究資金を獲得して、強力に事業化を推進する。前述の7つの領域で現在、35のコンソーシアムが研究開発を実施中だ。
これまでに採択されたテーマを見ても、「高付加価値野菜品種ごとに適した栽培条件を作出できるAI・ロボット温室の開発」「アミノ酸の代謝制御シグナルを利用した高品質食肉の研究開発と、そのグローバル展開」「高度インテリジェントロボットハンドによる自動箱詰めの実現」「複合部材を活用した中層・大規模ツーバイフォー建築の拡大による林業の成長産業化」「大規模沖合養殖システム実用化研究」など、実に多彩なテーマが並んでいる。
産学官連携協議会の川村邦明会長(前川製作所専務)は、「さまざまな「知」が集積したスマート農業やスマートフードチェーンシステムを構築し、それを食を通じた新たな健康システムの確立へとつなげていく必要があります。そうした取り組みが同時に、アジアにおけるスマート農業の展開にもなり、我が国の農業のブランド力や競争力の向上にもつながっていくでしょうし、つなげなくてはなりません」と語る。