農林水産業イノベーション第5回
明日の農林水産業の姿を変える、クロステックの社会実装

農林水産省

「農業×テクノロジー」による新たなイノベーション創出を目指す農林水産省の『「知」の集積と活用の場』では、実用化や社会実装に向けたプロジェクトが多く進んでいる。2018年11月に東京ビッグサイトで開かれた「アグリビジネス創出フェア」でも、多くの実施中のプロジェクトやその成果事例が報告されたが、今回は3つのユニークなプロジェクトに注目してみた。

1個1700円の大粒完熟イチゴを
高付加価値たらしめる「手つかず技術」

 大きさは、栃木県産イチゴの有名ブランド「とちおとめ」の約2倍で、手のひらに乗せても小さく見えない40~60g。これが、東京の日本橋三越本店で1個1700円でも飛ぶように売れた。

 しかもイチゴは、収穫時から食べる人の口に入るまで、人の手に一切触れられていないのだ。高品質で高級、つまり付加価値の高い作物を、付加価値を維持して売るにはどうしたらよいか。そんな疑問から始まったのが、「日本産果実の超高品質世界展開を可能にする流通技術開発」プロジェクトである。

宇都宮大学農学部
柏嵜 勝 准教授

 宇都宮大学農学部の柏嵜勝准教授と、同大学工学研究科の尾崎功一教授らのグループが主導した。柏嵜准教授は、「研究のきっかけは、規格外のイチゴが捨てられていたことでした」と振り返る。大きくなりすぎた規格外のとちおとめは、出荷ケースに納まらず、無理に入れると他のイチゴと接触して傷つくので捨てられていた。しかし大粒のイチゴも、甘くて美味しい。

 そこで栃木県が、とちおとめの2倍のサイズの「スカイベリー」を開発していることに注目。2012年に香港で「6個入り1万円」で試験販売してみると、富裕層から絶大な支持を得た。マレーシアでも同様だった。「そこで、このイチゴの付加価値の高さを維持できる収穫法や流通手法はないかと考えたのです」(柏嵜准教授)。

  柏嵜准教授がまず仕掛けたのが、日本産イチゴが届かない欧州でのお墨付きを得ることだった。毎年、欧州の一流シェフが50人ほど集まって食材の味と品質を評価する「国際味覚審査機構」に出品。その結果、2016年から最高位の「優秀味覚賞三つ星」を3年連続で受賞して「Crystal Taste Award」を果物で世界で初めて獲得した。日本産の食味豊かな完熟イチゴを、無傷で、かつ食味を保った状態で出品できたのが勝因だった。

とちおとめの2倍のサイズの「スカイベリー」は、欧州の一流シェフに評価され、最高位を3年連続で獲得

 その秘密が、収穫時から一切、人の手に触れないことにある。

 尾崎教授が開発した「収獲ロボット(モジュール分散協働型農業支援ロボットシステム)」は、画像分析によってイチゴの大きさや成熟度(赤み)を判断して収獲すべきイチゴを識別する。次に複数の爪を持つロボットハンドがイチゴのヘタより下の茎を切り、イチゴの茎をつかんで収穫する。

 このイチゴを今度は、柏嵜教授が開発した1個ずつ納める専用の包装容器「フレシェル」に入れる。輸送中にイチゴが揺れて容器と接触したりしないように、ロボットはフレシェルの底敷にイチゴの茎をしっかりと挟み込んで固定する。そして透明のキャップがかぶせられる。容器内には、イチゴがぎりぎりまで呼吸を減らして品質を維持できるレベルの大気が循環できるようにした。

 一連の過程で、一切、人の手に触れないので傷が付いたりすることもなく、「収穫後2週間の品質保証ができ、実験では実質4週間はおいしさを保てます」(柏嵜准教授)。国際味覚審査機構の評価員のシェフの一人は、「このイチゴならば、まずガールフレンドに食べさせる。デザート? それは後から考えるさ」と言ったという。

 柏嵜准教授はプロジェクトには「2つの意味がある」という。「1つは、生産者が苦労して栽培したことに見合う価値、価格を実現すること。そしてもう1つが、価値が形成される過程を見える化して、それに納得した消費者に買ってもらえる仕組みをつくること。だから研究で終わらせず、社会実装まで持っていく努力が必要なのです」。

問い合わせ先
農林水産技術会議事務局
http://www.affrc.maff.go.jp/
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