農業が先端技術と融合することで、産業としての構造そのものの大変革が成し遂げられようとしている。日本農業の課題を克服し、国際競争力も高める「スマート農業」の現状と、次なる課題を2回に分けて報告する。
担い手の高齢化と耕作地面積の拡大という、大課題に応え
構造の大規模変革を促す、スマート農業の推進
日本農業の現状を象徴するのが、就業者数の変化と、その年齢構成だろう。農業就業人口は、1995年の414万人から20年後の2015年は210万人と半減した。その平均年齢は66.4歳であり、65歳以上が6割を占めている。24~49歳が半数近くを占める先進諸国と比べると、日本の農業就業者の「高齢化」は突出している。
その一方で、農家1経営体当たりの耕地は集積が進み、先と同じ20年間では平均面積は1.6ヘクタールから2.5ヘクタールに拡大した。さらに5ヘクタール以上の経営体の集積割合は34%から58%へと増加している。
2つの現実は、多くの課題を浮き彫りにする。つまり、①農業就業者が減少する一方、経営耕地面積が拡大するなかで、1人当たりの作業面積の限界をいかに打破するか、②栽培管理やトラクターの操作など熟練者でなければできない作業が多く、若者や女性の参入の妨げになっている、③現場には機械化が難しくて手作業に頼らざるを得ない危険な作業やきつい作業が多く残されている、④収穫や選果などでは多くが人手に頼っており、労働力の確保が困難になっている、などだ。
大臣官房政策課技術政策室
松本賢英 室長
こうした課題に対応すべく農林水産省が13年に立ち上げたのが「スマート農業研究会」だ。所管する大臣官房政策課技術政策室の松本賢英室長は、「ロボティクスや人工知能(AI)などの先端技術と農業技術を融合して新たな生産技術の体系を創造しようとしています。省力化や低コスト化などと同時に大規模農業にも対応できるようにすることで、高齢化や耕地面積の拡大などの課題を克服できる『スマート農業』の確立を目指しているのです」と説明する。
スマート農業の具体的なイメージは次のようなものだ。まず、各種の自動化によって超省力な大規模生産が実現され、センシング技術やビッグデータの活用により作物のポテンシャルが最大限に引き出され、各種の支援ツールによってきつい作業や危険な作業から解放され、ノウハウの「見える化」によって誰もが取り組みやすい農業へと変わり、一連の取り組みによって消費者に安心と信頼を提供できる等々。
「スマート農業に対する現場のニーズはかねてから強かったのですが、ここ数年、センサーや人工知能などの技術が急速に進化するのを受けて現場のニーズに応えられるようになり、社会実装も急速に進み始めました。スマート農業の研究と開発は、現在はまだ水稲が中心ですが、中山間地域向けや、露地野菜や果樹などの分野にも研究開発を進めているところです」(松本室長)
スマート農業へのアプローチは、「先端技術による作業の自動化」、「作業ノウハウの形式知化」、「センシングデータなどの活用・解析」に分けて俯瞰できるだろう。すでに始まっている未来を、この3領域から見てみよう。