まさに「5年後の農林水産・食品産業の未来」である
研究コンソーシアム
近い将来の実用化を視野に入れている研究コンソシーアムでの研究テーマは、まさに数年から5年以内に日本の農林水産・食品産業で起きようとしている未来の姿そのものだ。これら現在実施中の研究開発がポスターセッションにおいて紹介されていた。
例えば、三菱ケミカルやパナソニック、富士フイルムなどの大手企業と農研機構、名古屋大学、大阪大学、東京大学などがチームを組んで挑んでいるのが、「農林水産・食品産業の情報化と生産システムの革新を推進するアジアモンスーンモデル植物工場システムの開発」。簡単に言えば、高温多湿な日本の夏の気候下でも高効率で低コストな太陽光利用型植物工場を開発しようとするものだ。
ITファームプロジェクト
吉田重信 統括マネジャー
植物工場は従来、オランダ型のものが紹介されてきたが、その栽培管理手法や設備の仕様などが日本の気候・風土となじまないために導入が進んでこなかった。プロジェクトでは、野菜栽培が少ない沖縄・石垣島にハウス5棟を設置。風速50mにも耐えられるハウスの設備仕様だけでなく、野菜の甘みを生み出す寒暖差を人工的につくる仕組みなどを検証している。
プロジェクトを推進する三菱ケミカルの吉田重信・ITファームプロジェクト 統括マネジャーは、「プロジェクトスタートから3年が経ち、すでにトマトの生産には実用化の目途が立ちました。これからは暑さが苦手なイチゴの栽培手法の確立に挑みます。設備費用もオランダ型の半分の2億円を見込んでおり、沖縄を野菜の一大産地に変身させることを夢見ています」と語る。
水産分野にも興味深い取り組みがある。水産大手のマルハニチロやバルブ大手のキッツ、JXTGエネルギーなどが取り組んでいるのが「革新的技術を集約した次世代型閉鎖循環式陸上養殖生産システムの開発と日本固有種サクラマス類の最高級ブランドの創出」だ。
中央研究所
椎名康彦 副部長
回転ずしでは、サーモンが子どもたちの圧倒的な人気を集めている。実はサーモンと言っても北欧やチリなどのマスがほとんど。そこで日本の固有種であるサクラマスを、クラウド技術や排水ゼロなどの技術を駆使して陸上で養殖し、国内消費だけでなく「日本固有種」として輸出ブランドにも育てようというのだ。
そもそも魚類の養殖は、西の海では成功している。しかし北の海では実績は少ない。それは、海を利用して養殖をしようとしても、冬場の荒天時の施設維持が難しく、低水温で成長も停滞するためだ。プロジェクトは、すべての養殖工程を完全に陸上で行うことでこの課題を克服。さらにサクラマス本来の赤身を出すための天然素材を利用した配合飼料の開発も行っている。
プロジェクトリーダーの椎名康彦・マルハニチロ中央研究所副部長は、「養殖システム全体について国際的な安全認証を取得し、安全で安心なサーモンとして輸出を目指したい。すでに1回目の養育試験は終了し、2020年ごろまでには皆さんにお披露目できると思います」と語る。
前述のトークセッションでは、耐風性や耐雪性などに基準がなく地方独自の規格で立てられているハウスに、耐震性も加味した統一規格を提案している事例もあった。報告者の高瀬貴文・果実堂テクノロジー代表取締役社長は、「農業には経験も勘も必要ですが、企業が取り組むとなればもっと合理的な発想が必要で、自然を理解するためにサイエンスをきちんと使い、生かしていくべき」と語る。
(右) NKアグリ 三原洋一 代表取締役社長
またトークセッションでコーディネーターを務めた三原洋一・NKアグリ代表取締役社長も、機械メーカーが農業分野に参入した自社の経験を踏まえ、「素人なのでデータを徹底的に集め、仕事の精度を上げる必要がありました。自然を科学的に理解する作業が不可欠です」と語る。
休坂健志 執行役員
先に紹介したオプティムが、スマート農業への取り組みを始めたのは、「母校の佐賀大学で菅谷社長が記念講演を行った際に、農学部の先生たちが、『その技術を農業で使えないかな』と声を掛けてくださったのがきっかけでした」と、同社の休坂健志・執行役員は振り返る。さらに「それは、ソフトウェアの開発会社であった私たちにも新鮮な提案であり、私たち自身が先端技術と農業の出会いの可能性の大きさに気が付かされたのでした」とも語る。
それこそが「「知」の集積」の目指していることであり、ITの技術進化は、農業の前提にある自然理解を促す大きな武器になっているのである。
問い合わせ先:
『「知」の集積と活用の場』産学官連携協議会事務局
https://www.knowledge.maff.go.jp/