他の地域に比べれば強い競争力を持つ産地であっても、「より強く」なるための基盤改革への挑戦は続いている。農林水産省の「労働力不足の解消に向けたスマート農業実証」は、新型コロナ禍における人手不足対策を主眼とするものの、「強い産地をより強くする」きっかけにもなっている。2つの産地を取材した。
CASE 1 JA幕別町「ドローン農薬散布」
3台1班を自動展開させる
北海道帯広市を中心とする十勝地方は、「日本の食料基地」と評され、北海道の耕地面積の22%を占めるなど、まさに日本屈指の耕作・酪農地帯である。「十勝」という地名は、域内を流れる十勝川を指すアイヌ語「トカプチ」に由来し、トカプチこそが大平野と潤いをもたらしてくれている。
帯広市の東隣にある幕別町では2020年11月上旬、ドローンを利用した秋まき小麦の農薬散布作業が続けられていた。3台のドローンを1班として2班、計6台のドローンが展開。ドローンは、16リットルの薬剤を搭載して1.5ヘクタールに散布できる(基本仕様。電池容量や天候、麦の状態により作業時間や散布面積は変わる)。
3台のドローンは、あらかじめ測量用ドローンで計測された散布地のデータに従い、それぞれが自動で作業を続ける。見守る作業員は1人で済んでいる。
JA幕別町の下山一志・営農部長は、「ピーク時には1班が1日で最大15ヘクタールの農薬散布をこなしました。ドローンは、作業中にバッテリー切れとなっても『どの位置で作業が止まったか』を把握しており、私たちは作業再開後も見守っているだけでよいのです」と語る。
JA幕別町でのドローンによる農薬散布は、農林水産省の「労働力不足の解消に向けたスマート農業実証事業」として行われているものだ。大規模な耕作地が広がる十勝地方では、ラジコンヘリコプターを使った農薬散布作業が当たり前になっている。
今回の実証事業では、①ラジコンヘリによる1時間当たり6~10ヘクタールの散布を、ドローンにより9~13.5ヘクタールに拡大する、②農薬散布に関わる人員をラジコンヘリの4人1組からドローンによる2人1組に減らす、③麦の生育状況を見て農薬を散布する時期の判断にかかる時間を人の目の1時間当たり5ヘクタールからドローンによる15ヘクタールに拡大する、という大きな目標が掲げられた。
下山部長は、「作業効率としてはラジコンヘリとほぼ同じレベルを達成できています。今後は、作業効率を上げるための検証が必要です。例えばドローンは自分の位置をGPSだけでなく耕作地に設置されている位置補正装置(RTK)などから把握しますが、防風林で電波が遮られたり、フライトプランと実測がマッチングしないケースがあることなどが分かり、より正確な作業のための技術的課題も明らかにできました」と語る。
拡大画像表示
ちなみにドローンがどの耕作地に、いつ、どれぐらいの農薬を散布したかなどのデータは、地図情報として営農支援システムにも取り込まれ、農業者はタブレット端末で確認できる。その営農支援システムは、十勝地域の個別農協の連合会である十勝農業協同組合連合会が独自に開発したものだ。日本を代表する大規模農業地帯の底力には、想像を超えるものがある。