ぶどう栽培の一連の作業を効率的で快適にし、かつ面積当たりの収量も増やそうという「山梨県における醸造ぶどう栽培のスマート農業一貫体系の実証」が、農林水産省のスマート農業実証プロジェクトとして採択され進められている。山梨県甲府市の南隣、中央市での同実証のコンソーシアムの活動を訪ねた。
ワイン人気の裏で原料用ぶどうが不足
「山梨県における醸造ぶどう栽培のスマート農業一貫体系の実証」(以下、プロジェクト)は、①ワイン醸造者であるサントリーワインインターナショナル、②サントリーワインインターナショナルが出資する農業法人で圃場(ほじょう/ぶどう園)を持つジャパンプレミアムヴィンヤード(JPV)、③シンクタンクの日本総合研究所、④システムインテグレーターの日鉄ソリューションズの4者がコンソーシアムを組織して取り組んでいる。
中央市の小高い丘にあるJPVの圃場4ヘクタールのうち、プロジェクト初年度となった2019年は3ヘクタールを活用。ここで醸造用の甲州種のぶどうを栽培している。
プロジェクトの背景について、コンソーシアムの実証代表者であるサントリーワインインターナショナル生産研究本部の高谷俊彦課長は、「醸造用ぶどうの生産量が消費の伸びに追い付かず、日本のぶどうを使って日本で醸造した『日本ワイン』を、楽しめなくなるような危機が迫っています」と説明する。
日本でのワインの消費量は、平成の30年間で約3倍になるなど、消費量が減っている酒類の中では異質な伸びを続けている。その中で国産ぶどうで造る「日本ワイン」は品質への評判の高まりもあって消費は堅調に推移している。だが一方で、醸造用のぶどうの収穫量は減少が続いており、近年は需要に対し供給が足りていない状況に陥っている。
生産研究本部
高谷俊彦課長
国税庁によれば、国内で製造されるワインの原料で国産ぶどうが占める割合は約25%しかなく、残りは「濃縮果汁」や「輸入ワイン」を使用したワインで、国産原料のみで造られた「日本ワイン」の割合は2割ほど。総製造量は増えるものの、それは海外原料頼みという傾向が強まっている。
国産醸造用ぶどうの収穫量が増えない背景には、ぶどう生産者の高齢化や廃業、他品目への転作がある。しかも湿潤な気候の日本におけるぶどう栽培には、独特のノウハウが必要で、技術伝承も容易ではない。プロジェクトが「スマート農業一貫体系の実証」という大きな名前を掲げているのも、ぶどう栽培の難しさをITの力を活用して一挙に克服しようという強い思いを反映してのものだ。
そのキーワードは、「ハイブリッド」である。