ニーズ・シーズの発見から始める新産業の育成。農林水産省が進める業界の壁を超えた『「知」の集積と活躍の場』のプロジェクトでは、実用化と成長産業化への道筋を示して研究開発をけん引する「プロデューサー」が活躍し、オープンイノベーションの成果を高めている。
オープンイノベーションを加速させる“紐帯”
『「知」の集積と活躍の場』のプロジェクトは、シーズやニーズの発掘から実用化(社会実装)に至るまでを3層構造で展開している。つまり、①産学官連携協議会における会員交流を通じたシーズやニーズの発見、②プロデューサーを中心に、新たな商品化・事業化に向けたビジネスモデルなどの戦略を検討する研究開発プラットフォームの活動、③研究開発プラットフォームで策定した戦略に基づき、具体的な研究を進める研究コンソーシアム(リサーチプロジェクト)の活動、だ。
スタートから実用化までの一連のシナリオを用意することで、プロジェクトの実現可能性を高める狙いがある。
その研究開発プラットフォームにおいて、活動を主導するのが「プロデューサー」だ。商品化や事業化を実現するための戦略を策定し、その戦略に基づいた研究開発に参加を表明した研究者や、企業の“紐帯”として意見の集約や利害の調整にもあたる。いわば活動の原動力であると同時に、ときには司令塔として決断し、ときには相談相手として聞き役にも回る。
現在『「知」の集積と活躍の場』では、約130の研究開発プラットフォームが展開され、これに134人のプロデューサーが配されている。
既存の業界の壁を越えて知を集積することで、農林水産業や食品産業の明日を築こうとするならば、まさにオープンイノベーションによる連携の強化と拡大が求められるが、農林水産関係者にしても、企業関係者にしても、当事者たちだけでは取組に限界があるのも事実だ。
「研究開発プラットフォームにおいて多様な分野の関係者の交流や議論を促しつつ、新たな商品化・事業化につながるビジネスモデルを策定し、これに必要な研究体制を構築して、オープンイノベーションを加速化する役割を期待されているのがプロデューサーです」(農林水産省農林水産技術会議事務局産学連携室)
研究開発プラットフォームでしっかりとビジネスモデルを構築し、そのために必要な研究を研究コンソーシアムで実行する、つまり実用化に近づいている研究が多いのも、プロデューサーたちの牽引力が的確で力強いからだ。日本で官が主導する各種のイノベーション支援策のなかでも、プロデューサーを配して実用化への確率を高めようとするものは異色だ。
プロデューサーたちは、どのようなスタンスや考え方で活動と向き合っているのか。その多様性もまた、『「知」の集積と活躍の場』のプロジェクトの大きな特徴になっている。