農林水産省が推進する「スマート農業」。一口に「スマート農業」と言っても、地域特性に応じた強みや弱み、抱える課題と対処法は全く異なる。その具体的な姿を実感できるのが2019年から始まった「スマート農業実証プロジェクト」だ。連載第3回では、日本の明日の農業の姿を「大規模水田」「棚田」「露地野菜」の事例から探った。
全国69地区で実証プロジェクトが始まり、早くも反響
2019年11月20日から22日まで東京・有明の東京国際展示場で開かれたのが、農業分野などの最新の研究成果を紹介する「アグリビジネス創出フェア」だ。その会場で、同じく3日間にわたって「全国版スマート農業サミット」も開催された。
サミットでは、農林水産省が19年4月から始めた「スマート農業実証プロジェクト」の69の実証地区の取り組みについてパネルで紹介され、そのうち26地区については、担当者がセミナーにおいて概要や成果を報告した。各地からの報告では、従来は実現できなかった革新的な作業の効率化や生産品の品質向上など、初年度から多くの成果が上がったという。
福島 一 課長
プロジェクトを推進する農林水産省農林水産技術会議事務局研究推進課の福島一課長は、「このプロジェクトには北海道から沖縄まで全国から252件の応募がありました。その中で採択した69地区はいずれも、今後の日本の農業を切り拓いていくものばかりですので、関係者による課題の擦り合わせや経験談を共有できる意義は大きいと思います」と同サミットの狙いを説明する。
改めて認識されたのが、地域特性に応じた強みや弱みがあり、一口に「スマート農業」と言っても抱える課題と対処法は全く異なるということ。大規模耕作地では、ロボットトラクターなどを駆使して生産性を大きく向上させられることが明らかになる一方、中山間地域では圃場(ほじょう)(※)のり面の草刈りを楽にする技術がいかに耕作者に恩恵をもたらすかなど、地域特性に応じたスマート化の必要性が明らかにされた。
「スマート農業の推進が、単にIT機器を導入するだけの“機械化貧乏”になっては意味がありません。実証プロジェクトで明らかになったコスト削減策、単収増加策、生産性向上策などは農研機構を通じて開示し、個々の地域、経営体の条件に合わせた形でスマート農業を推進できるようにしなければなりません」(福島課長)
「全国版スマート農業サミット」
サミットとアグリビジネス創出フェアにおいて共通して印象的なのは、日本の農業の変革に挑戦している人たちの多彩さだ。農業経営者、農機具メーカー、農業研究者といった従来のプレーヤーだけでなく、IT関連メーカー、レンタルやリース業者、リスク回避のための保険業者、経営評価手法を確立しようとする地方金融機関などもいる。
福島課長は、「スマート農業を単なる農業界の動きに留めるのではなく、多様な業界を巻き込み、新しいサービス産業を創造していきたいと考えています。そうしていくことで、ベテランのノウハウを若い人でも活用できるような分厚い農業技術の基盤が形成されます」と語る。
実証プロジェクトを進める中では、産業政策としてだけでなく地域再生政策としてのスマート農業という具合に、取り組みに意味論的な違いも明確になってきた。
そうした現状を伝える3つの実証地区について、次から見ていこう。
※「圃場」……作物を栽培する田畑。