双方の主張を検討したうえで判決は、業務の内容・発症の経過・医師による診断結果を総合的に判断すれば、Aさんが検査分析業務で有機溶剤に繰り返しさらされた結果、有機溶剤中毒に罹患し、さらに過敏症に罹患したという因果関係を認定できるとした。

 第二の争点についてAさん側は、花王は雇用契約上の安全配慮義務として、労働安全衛生法に基づく法令を守る義務があると主張。

 具体的には、(1)作業場の排気設備が不十分だった、(2)防毒マスクなど保護具も支給していなかった、(3)作業場の環境測定も実施していなかった、(4)適切な温度調節をしていなかったなど8項目の義務違反があったと指摘した。

 これに対して花王側は8項目すべてについて違反はなかったと反論したが、判決は(1)~(3)の3項目で安全配慮義務を果たしていなかったと認めた。

 第三の争点は、「消滅時効」(損害賠償請求権などは一定の期間に行使されないときは権利を消滅させる制度)に関するものだった。

 民法の規定では、(雇用契約上の安全配慮義務違反など)「債務(約束)不履行」によって生じた損害に対する賠償請求権は10年で消滅する。

 このためAさんの賠償請求権がいつ発生したかという「起算点」が争われた。

 花王側は、最初にAさんが損害を受けた時期に賠償請求権が発生したとし、それから10年以上経つので、請求権はすでに消滅していると主張した。

 これに対してAさん側は、損害賠償請求権を行使できるようになったのは「過敏症の症状が固定した時期」つまり訴訟を起こした2013年9月であり、権利は消滅していないと主張した。

 判決は、過敏症という病気は医師の診断があって初めて確認できるものであり、その時点で損害賠償請求権が行使できるようになったと考えるべきだとし、Aさんの場合は「過敏症の疑いが強いと診断された06年5月」が起算点なので、債務不履行に対する消滅時効は成立していないと判断した。