「俺の」の店長や料理長が自店の経営について意思決定をするために日々確認しているのが、この一覧表に並ぶ数字なのだ。

 しかし、布川は今まで料理人として生きてきた中で、店の数字に深く関わったことがなかった。「原価率の出し方くらいは知っていたが、それがどこまで自分の店の利益になっているのかまでは知らなかった」(布川)。

 また、PLを見ろと言われても「数字に関する知識は、最初は本当に小学生の算数レベルだった」(同)。坂本に教えを請いながら、徐々に自分の店を切り盛りするために必要な会計スキルを身に付けていった。

 もう一つ、布川が「俺の」で戸惑ったポイントがある。それは、会計について教えるよりも先に、坂本が「食材に原価をジャブジャブ使いなさい」と、通常の外食店経営者にあるまじき発言を繰り返したからだ。

 外食業界ではフード原価率を30%未満に抑えることが常識とされ、布川の今までのキャリアでもやはりそれが常識だった。それにもかかわらず、坂本はそれとは真逆のことを言ってくる。布川が戸惑うのも無理はなかった。

原価率ではなく
粗利を見る 
「額の経営」をせよ

 ただ、その発言にこそ坂本の経営者としての“嗅覚”が表れていた。「一流の料理人と原価率50%以上を掛けたおいしい食材。この二つが掛け合わされば、食べた人に間違いなく味の違いが伝わる」(坂本)と踏んだ。

 しかも、それをリーズナブルな価格帯で提供しようと坂本は決めていた。「『この値段ならこれくらいの味』という予想が覆されたとき、人はうまいと感じる」(同)と考えたからだ。そして、このアイデアを実現できれば、競争の激しい外食業界で勝負できると思った。

 とはいえ、原価率50%以上という常識外れの値を設定するには、常識外れのビジネスモデルを生み出す必要があった。それが「立ち食い」構想だったのだが、その実現可能性を坂本が検証するときに、実際に作った試算表を忠実に再現したのが次の表だ。