まず、B社が値下げをしないとしよう。「わが社も値下げをしなければ現状維持だから、両社ともに普通に儲 けが出る。一方、わが社が値下げをするならば、B社から客を奪えて、わが社は大儲けできる。B社は大損をするが、それはわが社の知ったことではない。つまり、B社が値下げをしないならば、わが社は値下げをすべきだ」と考えた。

 では、B社が値下げをするとすればどうだろう。「わが社も値下げをするならば、両社とも利益が減って小さな儲けになってしまう。しかし、わが社が値下げをしなければ、B社に客を奪われるので大きな損を出し、B社だけが大儲けする。つまり、B社が値下げをするならば、わが社も値下げをすべきである」と考えた。

 そして、「ということは、B社が値下げをしてもしなくても、わが社は値下げをすべきである。何も悩む必要はない。値下げをしよう」とA社の社長は判断したのだ。

 同じ頃、B社の社長も「A社が値下げをするか否かは不明だが、わが社はどうすべきだろう?」と考えていた。そして、同じ結論に達し、値下げに踏み切った。

 いかがだろうか。A社もB社も大会社だから、社長はそれなりに賢い人のはず。両社が「合理的な選択」をしたため、結局、両社とも小さな儲けしか出せなくなってしまった。両社ともに価格を維持していれば、ともに普通の儲けを得ることができたにもかかわらずだ。

 問題は、翌日も同様のことが繰り返され、「両社が小さな儲け」から「両社が小さな損」になり、翌々日は「両社が大きな損」になってしまう可能性があることだ。むしろ、そうなる方が自然であり、そうならない方が不思議なくらいだ。

 最悪のケースは、値下げ合戦が無限に続き、体力勝負になってしまうこと。例えばA社とB社がともに大手小売りであれば、安売り合戦に巻き込まれた零細小売店が淘汰され、大手が満員御礼になったところで値下げ合戦が止まるかもしれない。