「避難は正しかった」と
言いづらい国内の雰囲気

 松本さんが活動の基盤とする避難の協同センターは、避難者たちの精神的なダメージの大きさが見えてきた最近、各地の議員とのヒアリングと意見交換を開催し、当事者の声を聞いてもらうことに精を出している。

「新しい生活と割り切れればいいのですが、そう簡単にはいきません。放射線から家族を守るために必死で避難したが、本当にこれでよかったのかという思いに苛まれ、精神的苦痛と戦っている人も多いです」

 また、松本さんは、普通ではないことが普通とされていることに危機感を感じずにはいられないという。

「福島では『今日の放射線量は…』と毎日ニュースで流れます。県内での地産地消に対して不安だと言えば、風評被害になるから言わないでほしいと言われます。有名な人が出てきて、放射線は怖くないとキャンペーンをする中で、『心配だ』と声を上げる方が異常だと思われるのです」

「本当に避難することが正しかったのかとの疑問が付きまとっていた」という松本さんは、そんな迷いを抱えながら、2016年にカナダのモントリオールで開催された世界社会フォーラムに参加した。だがそこで、国を越えてさまざまな人々が松本さんの思いに共感してくれたことで、避難は間違っていなかったと確信できたという。

「いまだに社会の認識とのギャップにぶつかりますが、だからこそ当事者の声を発信し続けたいと思っています」

 松本さんは、これで終わりではないと伝えていきたいともいう。

「思い切って一歩前に踏み出した時、新しい扉が開くものだということも、身をもって知りました。今では福島に住んでいた時より知り合いも増え、よき理解者も増えました」

 岡田さんの「安心して自分の不安や思いを話せる場づくり」と、松本さんの「当事者の声を発信する」。それぞれの活動は、故郷に帰りたくても帰れない人々の心の安全のために、これからもっと必要となるだろう。