「カネのない人間は一生、他人の奴隷になるしかない」──気がつけば、忖度独裁国家と化していた日本。そこには、権力に食い込んで甘い汁を吸うカネの亡者があふれている。そんなヤツらに鉄槌を下す痛快無比の投資エンターテインメント小説が誕生! その名も『特捜投資家』! 刊行を記念して、著者の永瀬隼介氏が同作の読みどころ・執筆の裏話を紹介します。

伝説の編集者からの執筆依頼

 もう2年近く前になります。出版プロデューサーの加藤晴之さんより「書き下ろし小説を書かないか」とのお誘いをいただきました。

 この加藤さん、出版業界では知る人ぞ知る名編集者で、講談社在籍時は『週刊現代』『フライデー』の編集長を歴任。そのタブーを恐れぬイケイケの編集姿勢で訴訟の山を築き、名誉棄損の損害賠償請求額がなんと30億円!にも上ったとか。その分、世の耳目を集める衝撃スクープ(大相撲八百長疑惑など)も数知れず。

 書籍では百田尚樹さんの『海賊とよばれた男』(単行本、文庫併せて約450万部の大ベストセラー)を世に送り出し、「このヒットなしには円満定年退社もなかった」(本人談)と見事、講談社に莫大な利益をもたらしてフリーになられた、豪快にして緻密、豪胆にして繊細な伝説の編集者なのです。

 ぼくは『週刊新潮』の特集班記者時代から20年以上お付き合いをさせてもらっています。しかし、本格的にお仕事を御一緒するのは初めてです。拳を握り、覚悟を決めました。なにせ、相手はイケイケの剛腕編集者ですから。

 ネタばれになるので詳しくは書けませんが、打ち合わせの席で「こんなのをやりたいんだけど」と差し出された翻訳物の書籍を見て、ぼくは頭を抱えました。なんと、金融の最前線を描き、映画にもなった世界的ベストセラーなのです。

金融のド素人、金融小説に挑む

 これまでぼくが書いてきた小説は犯罪物、警察物がほとんどで、ノンフィクションも事件物がメインです。金融などズブの素人。カネ儲けや利殖ともまったく縁がありません(これは物書きとして稼ぐ能力の問題でもありますが)。

 ぼくは考えました。正統派の金融物は逆立ちしても書けないが、金融界に巣食う魑魅魍魎(ちみもうりょう)なら書けるのでは?

 振り返ればバブル経済時代、週刊誌記者として、ぼくは様々な“怪物”を取材してきました。

 “地上げの帝王”と呼ばれた人物の大邸宅を訪ねた際は、応接室に通されたものの、こちらの質問は一切無視。ソファで競走馬の写真集に見入るばかり。ぼくはいい加減疲れてしまい、こう尋ねました。

「馬がそんなにお好きなんですか」

 彼は顔を上げ、にっと笑いました。

「人間と違って馬は裏切らねえからな」

 聞けば、100頭以上の競走馬を所有し、1レースに数千万、賭けることもあるとか。怪物の孤独を見る思いでした。

 “北浜の天才相場師”と謳われた料亭の女将は衝撃でした。庭のガマガエルの石像を拝み「お告げがきたーっ」と高騰する株の銘柄を連呼し、それがまた当たると評判になり(バブル期、大半の株式銘柄は高騰していたのです)、巨額のカネが動いていると噂されました。

 ぼくは深夜、ある大銀行幹部の豪勢な社宅前で主の帰りを待ちました。運転手付きの黒塗り高級車で帰宅した幹部は、名刺を手に取るや、ほろ酔いの赤ら顔をゆがめ、犬猫を追い払うように怒鳴りつけてきました(当時、週刊誌記者の扱いは野良犬並だったのです)。が、噂の真偽を問い質すと一転、絶句し、顔面蒼白になりました。

 幹部も驚いたでしようが、ぼくも驚きました。大銀行が女将に融資していたカネは約600億円、と言われていたのですから。結局、バブルが弾けて女将は破産し、4300億円もの負債が泡と消えました。女将も大銀行のエリートたちも、カネの魔力におかしくなっていたのです。

悪魔の頭脳が生み出した“司法テロ”

 前置きが長くなりました。『特捜投資家』は、ぼくと加藤さんが取材を重ねて探し出した新たな怪物を柱に据え、その周囲で甘い汁を吸う悪党どもの壮大な詐欺と、それを暴くべく奮闘する崖っぷち4人組の闘いを描きました。

 斜陽新聞社を辞めた貧乏ライターに、挫折続きのバリキャリ美女、うだつの上がらない学習塾経営者、それに地獄から這い上がった孤高の投資家。

 人生の敗者復活戦に挑む奇妙な4人組は時にぶつかり、シビアな現実に絶望しながらも、金融のすべてを知り尽くした怪物に果敢に挑みます。

 この怪物、実在の人物から着想を得たのですが、ぼくはこれほど複雑で非情で怖いワルを他に知りません。

 司法関係者が“司法テロ”と恐れおののいた前代未聞の手口で莫大な財を築き上げ、「おれは法に触れることは一切やっていない」と豪語した、悪魔のような頭脳の持ち主です。

 その詳細は本作に譲りますが、読めば驚くこと間違いなしです。

 1年余りかけた取材では、ベンチャー起業家から投資ファンドマネジャー、社会学者、ネットニュース編集者、ジャーナリスト、新聞記者まで、様々な方にお会いしました。足で稼いだ金融最前線の熾烈な闘いの実情が、物語にリアリティを与えたと自負しております。

 最後にタイトル『特捜投資家』について説明させてください。不正企業を取り締まるべき捜査機関(地検特捜部、警察捜査二課)は、悲しいかな開店休業の状態にあります。本作では投資家たちが現代の“必殺仕置人”となり、天に代わりて不義を正そうとするわけですが、その手法はウルトラCとも呼ぶべき奇想天外なものです。ぜひ、読んでみてください。この手があったか!と仰天しますよ。