ROS向上に資する
CRE戦略の主要な実践例

 利活用が見込まれない不動産は当然、売却するべきだ。しかし、継続的にROEやROAを向上させるにはそれだけではなく、「不動産売却で得たキャッシュを”稼ぐ力”を向上させるための元手として活用する戦略まで考えるべき」と百嶋上席研究員は語る。

「拙速な株主至上主義の下では、企業のCREへの関心も、ファシリティ費用など不動産関連コストの削減や不動産の売却など目先の利益貢献に専ら向かってしまいがちです。しかしROSを中長期的に向上させるためには、設備投資、R&D(研究開発)投資、M&Aなど積極的な戦略投資を実施することが重要です。CRE戦略には、この戦略投資をしっかりとサポートする役割が求められます」(百嶋上席研究員)

 百嶋上席研究員はその具体的な戦略例として、(1)クリエイティブオフィスの構築・運用(2)大規模ビルへの戦略的な移転・集約(3)ROSの高い事業へ集中する事業ポートフォリオの転換や効率性の高い最新鋭設備への更新・集約に資する不動産サービス提供を挙げる。

(1)のクリエイティブオフィスは、画期的な製品サービスの開発や業務プロセスの改革などROSを高めるイノベーション創出に向けたR&D拠点や本社などでの“創造的なオフィスづくり”を指す。

「クリエイティブオフィスは、部門を越えたコミュニケーションやコラボレーションを活性化して、イノベーション創出を促進するツールとして非常に有効です。例えば、カフェやライブラリー、階段の吹き抜けスペースといったインフォーマルなコミュニケーションを喚起する休憩・共用スペースを効果的に設置することで、組織を円滑に機能させる従業員間の信頼感やつながりを育むことが期待できます」(百嶋上席研究員)

 クリエイティブオフィスは、企業のブランド価値を高めて、優秀な人材の確保と定着を図る手段にもなるという。また、これを構築・運用する際には、「省エネ・温暖化ガス削減などの地球環境への配慮、従業員の心身の健康への配慮も欠かせない」と、百嶋上席研究員は補足する。

「フロア面積が広いメガプレートを備えた大規模ビルに、分散していた本社機能などを集約する(2)でも、関連性のある複数の部署やグループ会社をワンフロアに集めることで社内のインフォーマルなコミュニケーションの活性化が期待できます。そこからコラボレーションやグループのシナジー創出につながる可能性もあるでしょう」(百嶋上席研究員)

 事業ポートフォリオ転換や最新鋭設備への更新集約(3)は、事業拠点の移転集約・再編成を伴うケースが多い。ノンコア事業にかかわる拠点や設備の老朽化が進んだ事業拠点を縮小・閉鎖する一方で、コア事業にかかわる工場やR&D拠点を新設したり、最新鋭設備への更新投資を新規立地で行ったりするケースなどが挙げられる。

「拠点の移転集約には、遊休不動産の売却や事業用適地の確保など不動産取引を伴うことが多いため、CRE部門のしっかりとしたサポートが求められます」(百嶋上席研究員)

 ただし、中長期的なROS向上に資するCRE戦略は、ここに挙げた戦略例にとどまるものではない。「経営トップが打ち出す中期経営戦略は各社各様であるため、それに伴って取るべきCRE戦略も当然各社で異なるはずです」と、百嶋上席研究員は言う。