中島茂弁護士、秋山進氏Photo:DOL

いまや戦略的な企業経営を行うにあたって、法務の知識は不可欠だ。コーポレートガバナンスやコンプライアンスは以前にもまして取り沙汰されるようになっている。企業がいかに戦略的に法務知識を用いるべきかを説いてきたコンプライアンスの第一人者で、不祥事や不正の際の企業対応に詳しい中島茂弁護士と、中島氏との共著もある本連載「組織の病気」の著者・秋山進氏が、連載第100回の今回から3回にわたって「企業と法」をテーマに語り合う。1回目の今回は、コンプライアンスの歴史を概観しつつ、未だに企業のコンプライアンス違反がはびこる理由を考える。

総会屋との決別、雪印事件、ライブドア騒動…
企業のコンプライアンス・危機管理は16年で変化

中島茂弁護士中島茂(なかじま・しげる)
弁護士、中島経営法律事務所代表
東京都生まれ。東京大学法学部卒、1979年弁護士登録。83年、企業経営法務を専門とする中島経営法律事務所を設立。企業経営に法務の知識を活用すべきだとして、早くから「戦略法務」を提唱。企業の危機管理や企業法務の第一人者。『社長!それは『法律』問題です』、『その『記者会見』間違ってます!』、『株主を大事にすると経営は良くなるは本当か?』(以上日本経済新聞出版社)など著書多数。
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秋山 コーポレートガバナンス、株主代表訴訟、知的財産、独禁法、ディスクロージャー、リスクマネジメント、コンプライアンスなどについて先生と対談をさせていただき、それをまとめた『社長!それは法律問題です』という本が出たのが2002年。この16年で企業のコンプライアンスや危機管理対策についての意識も大分変わったように思います。

中島 企業と法という観点でいうと、まず1996、97年頃から、企業は反社会的勢力との決別を求められるようになりました。というのは、1997年に旧第一勧業銀行と野村證券、大和証券、日興證券、山一證券の旧四大証券会社の総会屋への利益供与事件が発覚し、たったひとりの総会屋がこれら金融機関から100億円以上の不正融資を引き出していたことが明らかになったからです。

 総会屋は、若い世代にはなじみがないかもしれませんが、株主として、企業の株主総会に出席し、企業から金品を受け取れば議事進行に協力し、企業が資金提供を拒めば会社を攻撃して株主総会を妨害するような活動をしている、反社会的な存在でした。

秋山 今では信じられないことですが、高度成長期に、大きな企業が合併や買収を行う際には、総会屋が必ず後ろで協力していたといわれていますね。その他、いろいろ大きな意思決定をする際には、反対意見が出ないように総会屋に株主総会を仕切ってもらわなければ、こうした企業活動が円滑に進まなかったと言われています。