秋山 本のために対談をさせていただいたときは、先生の主張はきわめて合理的だと思っていたので、中島先生がそこまで孤独感に苛まれ、決死の覚悟を持っておられたとは思っていませんでした。16年間で先生の提言のような方向性に変わってきたように思います。

中島 最近では大手新聞でも、「コンプライアンス(法令遵守)」と書くことはなくなったようです(笑)。

秋山 テレビドラマなどでも、ちょっとしたグレーゾーンにある行為を「それってコンプラ違反ではないですか」などというシーンを見かけます。拡大解釈の場合も多いと思うのですが、そのように使われるほど日常にも浸透したということですね。

中島 言い続けた甲斐がありました。法哲学者のゲオルグ・イェリネクは「法とは最低レベルの道徳」と言っています。つまり法令違反なら最低レベルに反しているわけで、即退場です。法令に違反すれば、刑事罰もありますし、民事訴訟では損害賠償を支払わなければなりません。企業で不正や不祥事があった場合に、法令違反なのかどうかではなく、それが社会常識や良識道徳に照らして許されるのかどうかを判断する段階に来ていると思います。

「セクハラ」という罪はない?
いまだに起きているコンプラ違反の例

秋山 しかし、にもかかわらず、まだコンプラ意識が低い例もさまざまに見受けられます。

中島 先般、元財務事務次官のセクハラ問題に対して、行政トップが「セクハラ罪という罪はない」という擁護ともとれる発言をして話題になりました。呆れたことに、あれは閣議決定した答弁だったそうですね。

 確かにパワハラ罪やセクハラ罪というものはないですし、法には触れないかもしれません。しかし、世間や企業はすでに「セクハラはどう考えても人としてやってはいけないことだ」という認識になっています。裁判所も世間の認識を尊重していて、暴力の度合いがさほどひどくなくても、相手の意に反して相手の身体に触れたことを強制わいせつ罪と認めた判例もあります。

 2013年には、長崎の介護施設で火災が発生し、5人が亡くなる事件が起きました。この施設ではスプリンクラーを設置していませんでしたが、責任者は「法令(条例)違反ではない」とコメントしていました。ところがこの施設は、市から「危険なのでスプリンクラーを設置するように」との通達を受けていたのです。それを施設は無視していました。