Photo by Hirobumi Senbongi
かつて「永田町の女帝」といわれたフィクサーがいた。吉田政権下の与党・自由党の重鎮7人による幹部会に秘書として唯一、出席を許され、池田勇人、佐藤栄作といった歴代首相と対等に渡り合った。その名は辻トシ子。自民党のかつての名門派閥、宏池会の陰の権力者となり、政界を動かした。彼女と実の姉弟のように付き合っていたのが、故藤井裕久元財務相だ。『昭和の女帝 小説・フィクサーたちの群像』のモデルである女性秘書の謎に迫る、特集『小説「昭和の女帝」のリアル版 辻トシ子の真実』の#6では、生前の2021年5月に同氏に、辻トシ子の権力の源泉となった父・辻嘉六について語ってもらったインタビューの内容をお届けする。「政界最大の黒幕」といわれた辻嘉六は、なぜ鳩山一郎や吉田茂を支援したのか。(ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文)
政界の黒幕の押し入れには札束が…
「好きなだけ持ってけ」と言って政治家を品定め
――自由民主党の母体となる日本自由党の結党資金を提供した辻嘉六氏、そして、嘉六氏の政治的な遺産を引き継ぎ、50年以上、永田町に君臨した娘の辻トシ子氏とはどのようなご関係だったのでしょうか。
辻嘉六を知っている人は少ないかもしれません。日露戦争を満洲軍総参謀長として指揮した児玉源太郎に仕え、政友会系の政治家(原敬、久原房之助、鳩山一郎ら)と人脈を築き、戦後は日本自由党の結党を陰で支えたとされています。
僕の親父は、医者でした。辻嘉六とか、久原とか、そういうお金持ちの主治医をやってましてね。(お金持ちから報酬をもらって)近所(の庶民)はみんな無料で診る。そういう人でした。
――嘉六氏とトシ子氏の話は、表に出ていないものが多いですね。
それは、辻トシ子が取材を拒否していたからです。(彼女が2020年に亡くなって)今はもう歴史になりましたから、いいです。どうぞ報じてください。
父と娘がこれだけ日本に貢献したんですから……。辻親子は田中角栄と娘(田中眞紀子氏)とは違います。(辻親子は)隠れている。角さん親子は表に出っ放しですけどね(笑)。
辻嘉六は、悪いこともやってます。立派な人はだいたい悪いこともやっているんです。戦争中、裏で金を儲けたのは事実だと思います。
――辻嘉六氏は、日露戦争の際は、児玉氏の私設秘書として活躍し、その後は、中国大陸や満州で鉱山などを経営していたそうです。
詳しくは知りませんが、悪いことをやってた人っていうのは知っています。
旧日本軍が(日本や中国大陸などで)接収した貴金属や軍事物資が資金化され、辻嘉六から日本自由党に流れたとみられていますが、その真偽は明らかになっていません。
――大陸などで稼いだおカネを、第2次世界大戦後、日本自由党の結党資金などとして、鳩山一郎氏に提供した。
鳩山と、吉田茂ですね。この2人が戦後の日本を支える人物だと見破って、おカネを出した。
辻トシ子から聞いた話ですが、親父は、押し入れの中に札束を山のように積んでいた。そして、若い議員が来たら、「好きなだけ持ってけ」と言ったそうです。わずかしか持っていかないやつと、懐にじゃんじゃん入れるやつがいた。政治家として、いいやつと駄目なやつがよく分かるんだという話でした。
――用途も決まっていないのに、たくさん持っていく人もいる。
これはアウトです(笑)。それから、少ししか持っていかないやつもアウト。中道がいいんです。
そうやって、儲けたカネを、まっとうな政治家たちにばらまいていたんです。
鳩山一郎(前列右から4人目)と中堅若手の政治家ら。辻嘉六(前列右端)は政治家の育成を生きがいにしていた
昭和の女帝
小説・フィクサーたちの群像
千本木啓文著
<内容紹介>
自民党の“裏面史”を初めて明かす!歴代政権の裏で絶大な影響力を誇った女性フィクサー。ホステスから政治家秘書に転じ、米CIAと通じて財務省や経産省を操った。日本自由党(自民党の前身)の結党資金を提供した「政界の黒幕」の娘を名乗ったが、その出自には秘密があった。政敵・庶民宰相との壮絶な権力闘争の行方は?













