「BさんはX支社に15年間いらして、いろいろな古い事例を本当によくご存じだと、みんな尊敬していましたよ」と言いました。

 Bさんはちょっと半信半疑という顔をしました。上司から肯定的なことを言われた経験があまりなかったのでしょう。周囲からも好意的な評価があるとも思っていなかったに違いありません。そこで、

「Bさんは、本当はもっと積極的に営業をしてみたいのではありませんか」と水を向けてみました。死んでいた目に少し輝きが戻るのが感じられました。Bさんに、これから会社でどういうふうにしていきたいかをさらに尋ねると、ぽつぽつと、ずっと成績が振るわなかったが、本当はもっと頑張ってみたい気持ちがあることを話してくれました。少しずつ閉じていたものが開いていくようでした。私はそれ以外にも、Bさんに無理を強いない範囲でプライベートのことや、仕事と関係ないこともいろいろ聞いてみました。

 Bさんのような人は、上司や周囲から積極的に相手にされたり、戦力として扱われたりしたことがないので、話を聞いてもらう機会に飢えていることが多いのです。最初からできない人だと決めつけて、何も見ようとしなければ、何も生まれようがありません。本人もますます心を閉じて、やる気を封印してしまいます。けれども、こちらがちゃんと話を聞くつもりで相対すれば、自分の思いを必ず打ち明けてくれるものです。

 私はBさんが、「頑張って売ってみたい」と言ったとき、「ああ、やっぱりそうなんだ。だったら一緒にやりましょうよ」と言いました。

 Bさんが前向きになったこと。これが一番大事なことなのです。こうしてきっかけができて、自分でやりたいと言い、それをこちらも受け止めれば、あとは雪崩をうったようによいほうへ変わっていきます。

 その後、週2回の営業のミーティングで、Bさんの集中力が明らかに高まっているのが見て取れました。同僚の報告から、自分のヒントになりそうなことを必死に学び取ろうとしていました。

 研修も実施しました。研修は当然ながら、やるだけではまったく意味がありません。教える講師と教えられる側のトレイニーがお互いに共通の目標に向かって、ベクトルを合わせて臨むことで初めて研修内容がトレイニーに定着するのです。Bさんは頑張って売りたいという気持ちを全開にして研修に臨み、研修内容を最大限吸収しました。

 そして、ある朝礼の成績発表でのこと。「Bさん、1件」と私はBさんの前の週の成績を読み上げました。チームの同僚たちは一瞬信じられないという顔をして、やや遅れて、「おー!」と驚きと称賛の声を上げました。