オーウェンは以上のような方法で、一部の植物状態の患者に意識があることを実証する。そしてその方法は、彼らと意思疎通する方法にもつながっていく。2010年、最初の患者に脳スキャンを行ってから13年後、オーウェンはついに植物状態の患者と意思疎通することに成功する。それが具体的にどのような方法なのかは、ぜひ本書の該当箇所に当たってほしいと思う。

奇跡的な回復を果たした患者の
痛切なメッセージとは

 ところで本書は、そこで紹介されている研究内容が刺激的であるだけではない。その筆致やストーリー構成もじつに見事なのである。なかでも、植物状態の患者と意思疎通するなかで、「痛みを感じているか」や「死にたいか」を訊くべきかどうかで紛糾する場面などは、その現場に走る緊迫感がこちらにも伝わってきてゾクゾクさせられる。また、本書の随所で挿入される、植物状態になった元恋人のエピソードも心を惹く。そのように、本書は読者の心をつねに鷲づかみにしたまま、刺激的な探究の旅へと連れていってくれるのである。

 最後に、本書が突きつけてくる問題について言及しておこう。オーウェンは、植物状態と診断されている患者の15~20%が、「外部刺激にもまったく応答しないにもかかわらず、完全に意識がある」と推測する。わたしたちの周囲に存在する「声なき人」は、けっして少なくないというのである。その推測を重く受けとめるならば、わたしたちはグレイ・ゾーンの科学のさらなる発展を願うとともに、「声なき声」に耳を傾けるように努めなければならないだろう。締めくくりに、オーウェンの最初の患者であり、のちに奇跡的な回復を果たしたケイトの痛切なメッセージを引用したい。

“介護にあたる人たちは、私は痛みを感じられないと言っていました。とんでもない思い違いです。...[とくに肺から粘液を取り除かれるときなどは]どんなに恐ろしかったか、言い表しようもありません。”

“どうしても覚えておいてほしいことがあります。それは、私が先生とまったく同じで、一人の人間であること。そして、先生と同じで感情を持っているということです。”

(HONZ 澤畑 塁)