医療の取材や記事はデータに基づくエビデンス(科学的根拠)が重要視される。医師も基本的には「エビデンスのあるものしか信用しないし、話さない」ものなのだが、それでも現在の科学では分からない不思議な体験をしてしまう人もいて、しばしば耳にしてしまう。今回はあえて、エビデンスはまったくないが、医師から聞いた病院での「不思議な体験」「ちょっと怖い話」を記事にしてみた。(医療ジャーナリスト 木原洋美)
病院――あの世と
この世の境にある場所
もうすぐお彼岸。この日は、あの世(彼岸)とこの世(此岸、しがん)の距離が最も近くなる日と考えられている。「暑さ寒さも彼岸まで」というが、季節の境目であると同時に、世界の境界が最もあいまいになる日でもあるのだ。
そして、この世で、あの世との距離が最も近い場所は病院だと思う。現代人の多くは、病院からあの世へと旅立つ。
筆者は医療ジャーナリストという職業柄、病院を訪れたり、医師の話を聴いたりする機会が非常に多い。夏場の怪談シーズンや、年季の入った建物にお邪魔した際には自然と「不思議な体験したことありませんか」という話にもなる。
今回は、そんな折々の筆者の体験と、医師の体験談をご紹介したい。
最初の話は、伝統あるキリスト教系病院での体験談だ。
その病院の中庭には、昭和一桁に建てられた瀟洒(しょうしゃ)な西洋建築の施設がある。某誌の取材のため、私は昼の0時ごろ、カメラマンと2人、広報担当者の案内で施設内に入った。
「素敵ですね」
ヨーロッパの山荘のような絵になる内装、調度も落ち着いていい雰囲気だ。