のっぴきならない「事情」を抱えて路上生活に転落した人も多い、大阪・西成「あいりん地区」。彼らの日々の生活はもちろん、「死」を取り巻く環境もまた、なかなかシビアだ。行政関係者や葬祭業者、そして路上生活者たちに聞いた、「あいりん地区の死」の現状をレポートする。(フリージャーナリスト 秋山謙一郎)

路上生活者は死んだらゴミ扱い!?
ささやかれる噂の真偽とは

路上生活者の「死」のリアル、無字の位牌に読経なしの無常(上)あいりん地区では、ゴミ箱をあさって食べ物を探す人は日常茶飯事で見られる。しかしそんな彼らの中には、思わぬ大金を隠し持っている人もいるという 写真:秋山謙一郎(以下同)

 路上生活者が集う大阪・西成「あいりん地区」――ここで暮らす路上生活者たちは頑なに生活保護受給を拒む者も少なくない。なぜ彼らは行政によるセーフティネットを嫌うのか。

「死んで“ゴミ扱い”はないやろが!誰でも死んだら“仏様”とちゃうんかい?」長年、路上生活をしているというカツトシさん(本人によると70歳か71歳)はこう憤る。彼によると、身寄りのない者が生活保護受給中に死亡したら行政によりゴミ扱いされるのだという。だから生活保護を受けることなく70歳を過ぎても路上生活で頑張っているのだと話す。

 たしかに、ここ西成・あいりん地区で暮らす路上生活者たちの間では、「生活保護受給者が死亡した場合、ゴミ扱いされる」というまことしやかな噂を時折耳にする。

 しかしもちろん、これは路上生活者たちの誤解だ。

 大阪市では、身寄りのない生活保護受給者が亡くなった場合、火葬の後、その遺骨は大阪市設「南霊園」で斎場保管される。南霊園の管轄は大阪市環境局だ。その環境局では実際のゴミも扱っている。これが路上生活者たちに、「死んだらゴミ扱い」という誤った風聞となって伝わっていったようだ。

 路上で行き倒れて死亡した、身元の確認できない「行旅死亡人」も同じ扱いである。ただ、それではきっちり埋葬してほしいのかと言えば、そうでもないところが、路上生活者たちの複雑なところだ。

「手厚く葬ってくれとまでは言わん。ただ、そっと葬ってくれたらそれでええんや…」。カツトシさんが言う「そっと葬ってくれたら」というのは、もし自分が死んでも、行政による家族への連絡を控えてほしいという意味である。

 カツトシさん本人の言によると、10代でヤクザ組織入り、20代後半の頃、「下手を打って(失敗して)」、組織から逃げ出した。以来、この西成、山谷(東京)、寿町(横浜)といったドヤ街でずっと路上生活を続けきたという。彼は、いまだにヤクザ組織から「指名手配」がかかっていると信じている。

「地元には顔向けでけへん身や。死んだゆうたかて、わいの(自分の)存在がわかったら身内が迷惑するわな。せやから、いつ、どこで行き倒れても、わいは身元がわかるようなもんは持たへんのや!」