ヒット商品の裏には必ず「インサイト」あり。消費者がモノを思わず買いたくなってしまう心のスイッチ――「インサイト」を活用し、新しい市場を切り拓く方法とは。国内での新規事業の創出に加えて、インドや中国といった海外進出の際に実際に使われた方法もまとめた新刊『戦略インサイト』。本連載ではそのエッセンスや、マーケティングに関する最新トピックを解説していきます。

ベビーシッター代わりになる、アニメ

ディズニーやジブリに代表されるような名作アニメ。子どもたちは大好きですし、親も安心して見せられる内容なので、DVDやブルーレイなどの映像ソフトを買うご家庭も多いと思います。
こういう名作アニメのDVDを買う、お母さんの気持ちについて、みていきましょう。

子どもたち、特に3歳から10歳くらいまでの幼児・小学生はアニメが大好きで、ずっと見ます。実写ものより輪郭がはっきりしていて色彩も鮮やかなアニメだと、幼児でもある程度の時間、集中して見ていることができます。

お母さんは、何か用事をしなくてはならないとき、家事を片付けなくてはならないときなどに、子どもにアニメを見せておいて、その間に用事をすませることがあります。
座談会などの定性調査で、お母さんたちの話を聞くと、必ず出てくる話題です。
「アニメは、子どもたちがずっと見ていて静かにしていてくれるから、家事がはかどる」
「DVDってベビーシッター代わりになるから、とても助かる」
「そうそう。うちもそう」
と大いに盛り上がることもよくあります。

けっして押してはいけない、心のスイッチ

この事実と調査結果をもとに、「アニメのDVDは、ベビーシッター代わりになっていいですよ」というメッセージを発信したら、お母さんたちにアニメのDVDを買ってもらえるでしょうか?大きな広告キャンペーンを行って、この良さを訴求したとしたら、どうでしょうか?

結果は、大失敗に終わるでしょう。
買ってもらえるどころか、買おうと思っていたお母さんたちまで、買うのをためらってしまうでしょう。
このメッセージは、「DVDを買うお母さんは、アニメにベビーシッターをさせる、悪いお母さん」と感じさせてしまうからです。

お母さんたちは、心の奥底では、あまり子どもにアニメを見せすぎると良くない、本当はDVDにベビーシッターをさせるのは良くないという罪悪感を抱きながらも、名作アニメならいいだろうと折り合いをつけて見せているわけです。
このメッセージは、この気持ちを逆なでにして、イヤな気持ちにさせてしまいます。
また、人からも「悪いお母さん」と見られてしまいそうで、買いにくくなってしまいます。

このように、ネガティブな感情を引き出す心のスイッチは、けっして押してはいけません。
いくら事実としてターゲットがそういう行動をとっていたとしても、そういう気持ちがあったとしても、それはインサイトではないのです。
往々にして、この落とし穴、地雷ともいえる心のスイッチは、一見おもしろい発見に見えがちなので、注意が必要です。

これを未然に防ぐためには、この心のスイッチを押すと、ターゲットはどういう気持ちになるか、どういう行動を取りそうか、一度シミュレーションをしてみることです。
そうすれば、逆に「名作アニメが、いかに子供の情操教育によいか」を訴求することこそが、「ベビーシッター代わり」に使うこともあるお母さんたちの気持ちを救うことになるとわかるでしょう。