しかも、担当ケースワーカーの義経えみるは、当初「不正受給ではない場合のルールが適用され、全額返還とはならない」という内容の説明をしていた。期待させて絶望に突き落とす、最悪の成り行きとなった。しかし福祉事務所のチームワークにより、ケースワーカーたちは高校生と家族に理解と納得を求め、より強い相互理解と信頼を築くことができた。

 私の周囲には、このエピソードから「生活保護費不正受給のリアル」に気づいたという声が非常に多かった。「不正受給」の件数で最多となっているのは、就労収入(賃金)の申告漏れだからだ。件数で言えば「典型」のパターンを描き、現実を素直にフィクション化したとも言える。しかし、コラムニストの美神サチコ氏は、このエピソードについて、以下のように指摘する。

「不正受給を取り上げており、“子どものバイト代申告ミス”は現実にもありそうな出来事ではある。ただ、そうではない“悪質なケース”をドラマにできないのであれば、『ヌルいな』と落胆してしまう視聴者も多いようだ」

 結局のところ、「不正受給」として世の中に理解されている「現実」が、すでに実際の現実と乖離してしまっているのだろう。

 柏木さんは、「現実と違う」という数多くの思いを受け止めて、次のように語る。

「皆さんの声は、単なる『ドラマの感想』の範疇を越える切実さだったと思います、理想と現実が乖離している現状や、『では問題はどこにあるのか?』『どうすれば理想に近いケースワークが可能となるのか?』といったことは、今後、みんなで考えて行かなくてはならない重要な課題だと感じます」(柏木さん)

新人ケースワーカーと一緒に
視聴者が歩んでゆくドラマ

 ドラマ『ケンカツ』の想定している視聴者は、生活保護当事者でもケースワーカーでもない一般市民だ。生活保護に関する予備知識は、公務員となり、福祉事務所に配属された初日のヒロイン・えみると同程度であろう。「何も知らなかった新人ケースワーカーと共に、視聴者が歩んでゆくドラマ全10回」とも言える。