さらに衝撃的だったのは、職務不能を理由に大統領を強制的に解任できる「憲法修正第25条」を適用すべきかについて閣僚内で検討されたということだ。結局、憲法の危機を回避するために見送られたそうだが、そのような事が検討されただけでも異常な事態という他はない。

 トランプ政権内の混乱ぶりについては、これとほぼ同時期に発売された著名ジャーナリストのボブ・ウッドワード氏の新著『Fear: Trump in the White House』(恐怖:トランプのホワイトハウス)でも詳細に述べられている。

 ウッドワード氏によれば、経済担当大統領補佐官だったゲーリー・コーン氏は「大統領から国を守るために机の上の書類を隠して、大統領が署名できないようにした」という。また、マティス国防長官は大規模な在韓米軍の費用を大統領から何度も聞かれて苛立ち、「第三次世界大戦を防ぐためです」と不愛想に答えた。その後、長官は同僚に「大統領の理解力は5年生か6年生レベルだ」と語ったとされる。

 トランプ大統領は「本は作り話だ」と批判しているが、ウッドワード氏によれば、新著は政権内の人々への綿密なインタビューに基づいて執筆されたものだという。

 この本と前述の論説記事がともに指摘しているのは、大統領の精神状態や執務能力、国内外の諸問題についての理解力に不安を感じている職員が少なくないということだ。このような人物が大統領を務めているのは多くの米国人にとって不幸だが、さらに悪いことにトランプ氏は長く大統領職にとどまることに執念を燃やしているように見えることだ。

 たとえば、2018年3月、トランプ大統領は共和党の資金集めのイベントで、中国共産党の国家主席の任期を撤廃して無制限に務められるようにした習近平主席を褒め称え、「米国でもいつか試したい」と語っているのである。

今こそ身を挺して民主主義を守る時だ!

 米国では法の支配、憲法、三権分立など民主主義の制度がしっかり確立されているので、中国のようにはならないであろうことは容易に想像できる。

 しかし、ムーア氏は、「民主主義は“自己修復メカニズム”を持たない。“邪悪な指導者”によってシステムが崖っぷちに追いやられた時、それを元に戻すものがない。我々の民主主義は単に紙に書かれた約束事にすぎない」と警告する。

 具体的には、前述したように大統領が国家非常事態を宣言して国民の権利を奪ったり、報道の自由を制限したりということだ。実際、トランプ大統領はNBCの放送免許剥奪の可能性に何度も言及しており、「政権に批判的な報道をするテレビ局の放送免許を取り消す権限が自分にある」と信じているようだ。