岡田幸文選手が活躍したZOZOマリンスタジアム
岡田幸文外野手が活躍した千葉ロッテマリーンズの本拠地ZOZOマリンスタジアム Photo:PIXTA

記録と記憶に残る職人がまた一人、プロ野球界に別れを告げた。2008年の育成選手ドラフト6位で、社会人の全足利クラブから千葉ロッテマリーンズへ入団。俊足と好守を武器に一軍へはい上がり、玄人を唸らせるプレーで魅せ続けてきた岡田幸文外野手(34)が今シーズン限りで現役を引退した。デビューから2501打席に渡ってホームランなしが続いた軌跡は他の追随を許さず、もしかすると未来永劫に更新されないかもしれないプロ野球記録。己の技量を熟知することで、猛者たちが集うプロ集団の中で適材適所を機能させ、その時点でできるベストの走攻守を愛するマリーンズに捧げてきた岡田にとっては不名誉な記録ではなく、むしろいぶし銀の輝きを放つ最高の勲章となった。(ノンフィクションライター 藤江直人)

ホームランゼロで現役を引退
それでも実働9年間一軍で活躍した逸材

 ヒットを狙った一撃が図らずもホームランとなる。あるいは、ホームランを狙った打ち損ないがヒットになる。バッターが2つのタイプに分けられるとすれば、千葉ロッテマリーンズの岡田幸文外野手は前者の典型的な存在であることを矜恃として抱きながら、今シーズン限りでユニフォームを脱いだ。

 2018年10月8日。福岡ソフトバンクホークスを本拠地ZOZOマリンスタジアムに迎え、自身の引退試合と銘打たれた25回戦の九回裏。二死無走者で回ってきた通算2501打席目にして、現役では最後となるバッティングチャンスでも岡田は「自分らしさ」を貫いた。

 それは「内野手の間を抜く、あるいは外野手の間を抜いていくような、低くて速い打球を打つ」――。右腕・森唯斗が投げ込んできたストレートに、グリップを少しだけ余して握ったバットを強く振り抜いた。鋭い打球が一、二塁間を抜けていく。一塁を回ったその表情は、涙を必死にこらえているように映った。

 実働9年間に渡った一軍の舞台で、有終の美を飾ったソフトバンク戦での猛打賞を含めて573本のヒットを放った。内訳はシングルが521本。ツーベースが31本。スリーベースが21本。そして、野球の華であるホームランは、ついにゼロのままで終わった。