要約者レビュー
橘木俊詔
東洋経済新報社
216ページ
1500円(税別)
「巨人・大鵬・卵焼き」と言われた高度経済成長期ほどの勢いはないものの、今なお日本人の国民的スポーツとして君臨し続けているプロ野球。元来娯楽である野球がどのような経緯でプロスポーツとなり、一大ビジネスとなったのか。また、多くの野球少年が一度は夢見るプロ野球選手という職業は一体どのような仕事なのか。本書『プロ野球の経済学』ではこうした事柄を経済学の立場から考察している。
前もって述べておくと、著者の橘木氏は経済学好きの野球関係者ではなく、野球好きの経済学者である。そのため、プロ野球界で起こっていることを企業と労働者の間で起こっていることとして、冷静に評価することが可能であるし、そこに本書の面白さがある。近年少し翳りが見えてきている野球界が今後どのような方向性に進むべきかといったことについて、経済合理性を加味した独自の視点で考察しているのも興味深い。
本書は5つの章からなっており、第1・2章では野球が日本に輸入されてからプロスポーツの代表となっていった経緯について、第3章では選手と球団の関係について、第4章ではプロ野球選手の報酬について、第5章では日本とアメリカのプロ野球の比較について説明されている。本要約では、著者の専門分野である労働経済学の視点が色濃く見える第3・4章を重点的に取り上げる。
日本に深く根付いたプロ野球を産業としてとらえ、選手を経済学の見地から評価をするとさまざまな面白い発見があることを、ぜひ本書から感じていただきたい。 (和田 有紀子)
本書の要点
・プロ野球選手は球団に雇われている被雇用者ではなく、球団と年ごとに契約を結ぶ自営業者である。よって働き方や報酬制度が一般の労働者とは全く異なる。また年金に加入していない選手も数多く存在する。
・ドラフト制度は選手の職業選択の自由に多少は反するものの、経済学の見地からは容認できる制度である。機会平等性と経済効率性はトレードオフの関係にあり、ドラフト制度により選手の機会平等性が小さくなる一方で、プロ野球界の経済効率性は高まり収益が上がる。そしてプロ野球界の繁栄は選手の年俸にも反映されるのだ。