当日、披露宴会場に向かう途中、たまたまあいた待ち時間でAさんはスーパーに立ち寄り、万引きをしてしまいました。着替えなどが入った大きなバッグに、芳香剤や歯ブラシを入れ、レジを通らずにお店を出たところを、Gメンによって捕捉されました。どれも、いますぐには要らないものです。そのまま警察を呼ばれて逮捕され、披露宴会場に向かうことはできませんでした。”

 絶対にやってはいけない状況にもかかわらず、手を出してしまう。何の得にもならないのに繰り返してしまう、つじつまの合わなさ。家族や恋人、友人、同僚と、身近にいる人たちが疲弊していく様子が目に浮かぶ。紹介されるケースの数々は深刻度も置かれた環境も様々だが、それぞれに根深さがあり、治療も一筋縄ではいかない。万引きに対してこれまで持っていたイメージを塗り替えられるようなエピソードが、いくつも登場する。

エスカレートしていく
プロセスの中に共通点

 何がトリガーになるかは人によって異なるが、一度手を出してから徐々にエスカレートしていくプロセスの中に共通点がないわけではない。さらにいくつかケースを引いてみよう。

 40代女性のEさん。「俺たちも早めに家を建てないとな」、「毎日の出費をしっかり引き締めていこう」「頼んだぞ」。夫にそう言われた日から、Eさんの頭から「節約」の2文字が消えることはなかった。チラシを見比べ、気晴らしの買い物も控えて倹約に徹していたある日、無意識にカバンの中に商品のペットボトルが入ってしまい、それだけ会計せず店を出てしまう。以来、「これだけ買っているんだから、少しくらい」という気持ちが抜けなくなり、商品の一部を買わずに店を出ることを繰り返すようになった。

 30代男性のLさん。はじめて万引きをしたのは10代半ば頃で、20歳になる前にはすでに依存といっていい状態に。母親との関係が悪化すると家出し、そこで万引きをするのがLさんの決まったパターンである。家出の原因は、母親の過保護への反発にあった。息子の部屋に無断で入って机の引き出しやクローゼットをチェックし、「あたなのためを思って」と言って行動範囲や交友関係を監視する。捕捉されると必ず迎えにいくのは母親で、店舗へ謝罪し、罰金の支払いも肩代わりしていた。