「万引き被害が増えている」──NPO法人全国万引犯罪防止機構(東京都/河上和雄理事長)によると、同機構の調査に応じた319社で2009年度に確保された万引犯人数は4万5384人。対前年度比5.9%増だった。だが、業界関係者が注目するのは件数の増加だけではない。犯罪が悪質化している点だ。後を絶たない万引被害に、有効な手立てはあるのか。 聞き手/大木戸 歩(チェーンストアエイジ)
「万引が増えた」46.4%
「ここ1~2年で万引き被害は2割程度増えた」というのが関西地区を地盤とする、ある食品スーパー(SM)幹部の実感だ。NPO法人全国万引犯罪防止機構が実施した調査によると、回答のあったセルフ販売319社で2009年度に確保された万引犯人数は4万5384人。前年の4万2696人から2688人増えた。万引犯罪が「増えた」と感じている企業は46.4%、「変わらない」が19.7%である一方、「万引被害が減った」と感じている企業も16.6%あった。
今回の調査から浮き彫りになったのは、必ずしも全国一律に万引被害が増えているわけではなく、地域や業態によって万引き被害の増減は、さまざまだということだ。
万引の被害額の根拠とされる「不明ロス」は、今回の調査結果を見る限り、実は減少している。09年度の不明ロス高は、金額ベースで前年の1325億円から426億円減少して899億円。売上高対不明ロス率は、対前年比0.1ポイント減の0.42%だった。
業態別に見ると、SMや総合ディスカウントストア(DS)の被害は減少傾向にある一方、カジュアル衣料や服飾雑貨、楽器やCDといった、商品単価の高いカテゴリーの被害は1年間で2倍程度に増えた。
小売業は「心理戦」で応戦
犯罪の悪質化を指摘する声も多い。「『万引き』レベルを超えて、もはや『窃盗』と言うべき被害が増えた」と、あるディスカウンターの店長は警戒する。レジで精算をしないまま、缶ビールの箱を積んだカートを押して堂々と出ていく人。米の袋を担いで店を出ていく人。こうした未精算商品を買物カゴごと持ち出す「カゴ抜け」と呼ばれる犯罪が、近年はとくに目立つという。
カゴ抜けは「売却目的で複数犯が関わるケースが多く、店舗の従業員が捕まえようと声を掛けると、逆に襲われる危険性が高い」(警察関係者)だけに、各社が対応に苦慮しているという。
警察関係者は「犯人に『見られている』と意識させることで、万引き被害は減る」と話す。来店客に積極的に声を掛ける「声掛け」の強化や、防犯カメラの設置、制服警備員の配置などが有効な万引き対策になるという。実際、前出のSM幹部も「店舗の出入口に従業員が立っていると、抑止力が働く」と実感している。
後を絶たない被害に、小売業各社は「心理戦」を強めている。
トライアルカンパニー(福岡県/永田久男社長)は、一部の店舗入口にあいさつ係「グリーター」を配置している。お客に対するサービスの一環という意味合いもあるが、お客に声を掛ける点で防犯対策にもなる。大黒天物産(岡山県/大賀昭司社長)の店内に足を踏み入れると、入口に設置されたモニター画面にお客の姿が映し出される。画面に映された自分の姿を見たお客は、防犯カメラの存在を否が応でも意識するはずだ。
レイアウトの工夫もある。オーケー(東京都/飯田勧社長)の店内は、入口からレジまでの流れを一方通行にした「ワンウェイコントロール」になっている。入口部分にゲートを設け、レジを通らなければ売場から出られない、つまり「持ち出せない」レイアウトだ。死角をつくらないことも重要だ。「万引き被害に遭いやすい化粧品などの高額商品は、レジから見える位置に置く」(警察関係者)といった売場配置の変更も、有効な手段だという。
万引対策システムも進化
技術革新で万引きに挑む動きも出てきた。
万引き防止機器の普及に取り組む日本EAS機器協議会(東京都/山村秀彦会長)は今、出入口に設置する万引防止ゲートに、顔認証システムを組み込む実験を進めている。防犯カメラをお客の目線と同じ高さのゲートに設置することで、より正確にお客の顔を認証できるという。万引きの常習者が来店すると顔認証システムが反応し、従業員に注意を喚起する警報を発する仕組みだ。
セキュリティタグも進化している。これまで衣料品などで導入されてたセキュリティタグは、大型で目立つうえ、導入コストも高額だった。現在開発されているセキュリティタグは小型化したのが特徴で、値札や商品の箱に内蔵させることができる。ただ、1枚当たり4~5円というタグの価格は、1品単価の低い食品小売業にはまだまだ高いハードル。今後の普及による低価格化を待つことになりそうだ。
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