視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のシニア・エディターである浅羽登志也氏がベンチャー起業やその後の経営者としての経験などからレビューします。
老舗企業でも伝統と信用を守るだけでは
現代の環境変化に対応しきれない
東京商工リサーチの調査によると、日本には2017年の時点で創業100年以上の老舗企業が、実に3万3069社もある。
一方、帝国データバンクの「老舗企業倒産・休廃業・解散の動向調査」では、創業100年以上の企業による倒産・休廃業・解散が、2017年度は461件(前年度比2.2%増)。これは過去最多で、3年連続で前年度を上回ったそうだ。
帝国データバンクの調査レポートは、「長い歴史を積み重ね、信用の代名詞たる老舗企業においても、近年ますますスピードアップしている環境変化に対応すべく、これまで培った「軸」を守りつつ新たな挑戦を続けることが一層求められそうだ」と締めくくられている。
山本昌仁 著
講談社(講談社現代新書)
860円(税別)
つまり、どんなに伝統と信用を重ねてきた老舗企業であっても、それらを守り続けるだけでは生き残れない時代なのだ。
だが、これを裏返せば、今も活気あふれ好調な老舗企業は、厳しい環境変化を乗り越えられているということになる。彼らはおそらく果敢に新たな挑戦を繰り返し、その結果自らをある程度変革してきたのだろう。
本書『近江商人の哲学』の主役「たねや」も、そうした企業の一つであるに違いない。本書は和洋菓子製造販売の「たねやグループ」CEOが、代々受け継がれた経営哲学や、「ラ コリーナ近江八幡」をはじめとする事業展開について語っている。
たねやのルーツは、江戸時代の近江八幡の材木商。正確な記録が残っていないそうだが、創業はおよそ300~400年前という老舗だ。
現在のたねやグループは、本店のある近江八幡市を中心に、東京、名古屋、京都、奈良、大阪、神戸、福岡に多数の支店を有し、従業員1000人超の大企業となっている。