カショギ氏殺害と安田氏解放が追い風、トルコリラ復調の怖い賞味期限
暴落したトルコリラが復調している。それは足もとの地政学要因をトルコ政府がうまく利用しているためだ。しかし、通貨危機の新たな不安は燻っている Photo:PIXTA

トルコリラ復調の「なぜ」
追い風となった地政学的要因

 トルコの通貨リラは年初から下落に歯止めがかからず、過去最安値を更新し続けてきたが、8月10日に急落し、一時1ドル7リラ台に突入した。その後リラは中央銀行による大幅な利上げやスワップ市場での取引規制の強化などを受けて、1ドル6リラ台まで戻したが、しばらく膠着状態が続いた。

 そのリラ相場が10月に入ると上昇基調を強め、同月末には1ドル5リラ台半ばまで持ち直した。そもそも今年に入ってからのリラの暴落の根底には、エルドアン政権による経済政策の失敗がある。民意を獲得するためにバラマキ路線を突き進んだことが、金融市場で嫌気されたのだ。

 もっとも、エルドアン政権の経済政策が正常化したかと言えば、むしろ混迷の度合いを深めている。一部報道によると、エルドアン大統領は国内の銀行に対して貸出金利を引き下げて投資を支援するように要請を行った模様だ。その都度バルブを開け閉めするような対処療法的の経済政策は、事態を混乱させるだけである。

 では、なぜリラ相場が上昇しているのかというと、地政学的な要因がトルコの追い風になっているためである。決定的だったのは、サウジアラビアの反体制記者であったジャマル・カショギ氏が、イスタンブールの同国総領事館で殺害された問題だ。この問題をきっかけに中東のパワーゲームでトルコが優位に立ち、リラ相場を押し上げたのだ。

窮地のトルコが巧みに利用した
カショギ氏殺害事件と安田氏解放

 世界でも圧倒的な原油の埋蔵量を誇る中東秩序の安定は、米国外交の最重要課題である。現在、米国の中東政策の幹は、イランの勢力伸長をどう封じ込むかにあると言える。その重要なパートナーが、中東きっての親米国家であるサウジアラビアである。サウジアラビアは近年、中東の覇権を巡りトルコやカタールと対立を深めていた。

 他方で、米国のトランプ政権もまた、トルコに対して厳しい態度をとるようになっていた。8月10日のトルコリラ暴落は、トランプ大統領がトルコに対して経済制裁を科したことがきっかけとなって生じたが、背景には同国が米国人牧師ブランソン氏を長期にわたって拘束していたことがあった。

 トルコでテロを計画していたことを理由に、エルドアン大統領はブロンソン氏を拘束していたが、11月初旬に中間選挙を控える米国のトランプ大統領は、自らの支持基盤の有権者に対するアピールを重視し、本来なら北大西洋条約機構(NATO)の下で同盟関係にあるトルコに圧力をかけたのである。